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外向と内向・真逆の気質を両輪に俳優の道を邁進する/小野花梨さんインタビュー
“文化の継承者” として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。今回は、子役時代から培った確かな演技力と幅広い役柄の表現力で多くの作品に出演、CMや大河ドラマでも活躍中の小野花梨さんです。
最初に〝プロの仕事〟を教えてくれたのはスタッフの方々
テレビの子ども番組、そのスタジオ内に降る大量の風船を見て「あれが欲しい!」とねだったことが、小野花梨さんの「俳優への道」の第一歩。親御さんは小野さんを、児童劇団に入団させてくれたのだそうです。
「でも憧れの番組は、年齢制限と厳正な抽選を通過しなければならない狭き門で、結局出演はかないませんでした(笑)。5歳から子役として活動はさせてもらっていますが、最初は何もわからないまま大人に言われたことをやるだけでした。でも小学6年生の時、漫画原作のドラマ『鈴木先生』(2011年 TX系)に出演させていただいたことがターニングポイントになったんです。
作品は、長谷川博己さんが鈴木先生役で主演された中学校が舞台の群像劇。映画畑からいらしたスタッフさんの多い撮影チームで、年齢の近い共演の方もたくさんいましたが、生徒役の私たちみんなを一人の俳優として扱って下さった。演技の難しさや楽しさからプロとして役に向き合う厳しさまで、良いこともつらいことも全部教えてもらえたことで、あらためて俳優の仕事を続けていくための覚悟をしっかり持たせてもらえた現場でした」
ドラマはその年の、6月のギャラクシー賞月間賞や日本民間放送連盟賞ドラマ番組部門最優秀賞を受賞。
「同じチームでの映画版(13年)にも参加させていただけたのですが、今も忘れられないのがスタッフさんに言われた〝モニターを見るな〟という言葉。撮影現場では確認のためモニターをチェックしますが、私たちのような若輩者が〝わかった気〟になって見ても何も得るところはないと、はっきり言われたんです。仰る通りで、今も自分への戒めとして持ち続けている一言です。と、同時にどんなに短い場面でも、役としてちゃんと生きて演じられていれば〝見てたよ、良かった〟と監督をはじめスタッフさんたちが声をかけて下さって。中高校生がたくさんいる現場なのに、画面の真ん中にいない生徒まできちんと見守り、アドバイスして下さる。役の大小に関わらず、真摯に演技や表現に向き合っていれば誰かは必ず見ていてくれる。もう10年以上前になりますが、俳優としての私の、芯となる経験をさせてくれた大切な作品です」
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一方、演劇はというと、小野さんの本格的な初舞台は『8月の家族たち』(16年)でシアターコクーンのプロデュース作品なのです!
「高校の修学旅行だったか、キャリーケースを引いて制服のままオーディションを受けに行ったんです(笑)。それまで以上に右も左もわからない状態でしたし、演出のケラリーノ・サンドロヴィッチさんは〝コクーンで初舞台を踏むには声が小さいのでは?〟と思われたそうで、再度のオーディションに臨むことに。〝思い切って大きな声で台詞を言うといいよ〟とアドバイスを下さった方がいて、無事合格することができました。あの時アドバイスを下さった方に再会できたら、あらためてお礼を言わなくてはと思っています」
「出会い」という糧が今の私をつくってくれた
麻実れいさん、生瀬勝久さんをはじめ、『8月の家族たち』は実力派俳優がずらりと並ぶ豪華な座組です。
「まぶしいような先輩俳優の方々がつくる完璧な世界に、自分だけ何もできないのに飛び込むことになったんですよね。もちろん身の引き締まるような緊張も厳しさも感じましたが、それを上回ったのが〝舞台ってなんて魅力的な世界なんだろう!〟という感動。いきなり〝本物の演劇〟を体験させていただいたんだと思います。そんな、自分の今をはるかに超える体験を映像でも何度もさせていただいたことが、今の私をつくっている。また作品ごとに、先にお話ししたような貴重な言葉を下さるスタッフさんにも巡り会うことができ、そんな自分にとっての〝最初のお客様〟である方々を飽きさせず、面白がっていただくために全力を尽くすことが、どんな創作現場でも私にとっての最初の大きな目標になっています」
真っ直ぐ迷いなく俳優の仕事に邁進する小野さんが、自身の「糧」にしていることは何かを訊くと「出会い」との答えが。
「俳優には、お仕事をいただくたびにたくさんの出会いがありますよね。もちろん同じだけ別れもある目まぐるしい時間を生きているのですが、私は〝この方と出会えて本当に良かった!〟と思える出会いにとても恵まれてきました。そんな、私にとって財産とも言うべき出会いは今後もどんどん増えるはずですし、その方たちに面白いと思ってもらい続けるためには真摯に一作一作に臨むしかありません。特にスタッフの方々はとても目が肥えていらっしゃるし、相手がどんなに未熟でも、芯にある心根を見て下さるはず。それら出会いの全てが、今の私を作っている〝糧〟だと思っています」
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そんな小野さんは今年4月、『8月の家族たち』、『パラダイス』(22年)に続くBunkamura製作の舞台『おどる夫婦』に出演。蓬莱竜太さんの書下ろし、演出作品です。
「私、蓬莱さんの劇団モダンスイマーズの作品『死ンデ、イル。』(18年)のオーディションを受け、見事に落ちておりまして(笑)。そんな経験は数えきれないほどあるのに、なぜかその時のことがずっと自分の中に残っているんです。以降も蓬莱さんの作品は観続けていて、劇中の言ってみたい台詞をずっと自分の中で反芻しながら、〝いつか絶対に蓬莱さんの作品に出演する!〟と執着し続けてきました。それが叶っただけで、既にご褒美をいただいたような感覚で。まだ戯曲もいただいていないのに〝絶対面白い作品になるから〟と、周囲にも言いふらしているくらいです。また長澤まさみさん、森山未來さんをはじめ、本当に素敵な先輩方ばかりの座組で、今の私の妄想を(笑)はるかに超える体験ができる気がして、何もかもが楽しみです!」
常に真っ直ぐ全力で前進する印象の小野さん。でも意外なことに、オフは「超インドア」なんだとか。
「最近買ったミシンで延々と洋服の裾上げをしたり、古いタオルをバスマットや雑巾にして、その雑巾で床を磨き上げたり。あと腸活にもハマっていて、麹みそを作ったりもしますし、ベーグルなどのパン作りも楽しくて。お休みになると対人スイッチはオフにして、家から全く出ないことも多いですね。仕事の時とは真逆の、自分の内側に向かう気質も濃くあり、それで自分なりのバランスを取っているのかな、と」
オンは仕事で、オフでは家事のあれこれで自身と周囲を磨き上げる。その両輪が、小野さんを内と外の両面から輝かせているのかも知れません。
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文:尾上そら
〈プロフィール〉
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2006年にドラマ『嫌われ松子の一生』(TBS)で子役としてデビュー。22年公開の映画『ハケンアニメ!』での演技が評価され、第46回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。W主演を務めたドラマ『初恋、ざらり』(TX)は第50回放送文化基金賞ドラマ部門優秀賞を受賞した。近年の主な出演作に、【舞台】『パラダイス』『青空は後悔の証し』(22)、【映画】『52ヘルツのクジラたち』(24)、『プリテンダーズ』(21)、【ドラマ】『スノードロップの初恋』(24・KTV)、『お別れホスピタル』(24・NHK)、『透明なわたしたち』(24・ABEMA)、『罠の戦争』(23・CX)などがある。25年には主演ドラマ『私の知らない私』(YTV・NTV)、『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)が放送中。映画『長崎―閃光の影で―』の公開が控えている。
〈公演情報〉
Bunkamura Production 2025
おどる夫婦
2025/4/10(木)~5/4(日・祝)
THEATER MILANO-Za (東急歌舞伎町タワー6階)
「Bunka Baton」では、“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語っていただきます。ぜひご覧ください。
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