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【1999年のBunkamura②】蜷川幸雄と野田秀樹が『パンドラの鐘』で演出対決!大規模な『ゴッホ展』も話題に

Bunkamura History」では、1989年にBunkamuraが誕生してから現在までの歴史を通じて、Bunkamuraが文化芸術の発展にどんな役割を果たしたか、また様々な公演によってどのような文化を発信したのか振り返ります。今回は、開館10周年を迎えてさまざまな大型企画が行われた1999年を前後編に分け、下半期に各施設で行った公演や展覧会を後編として紹介します。


■オーチャードホール:Bunkamuraオペラ劇場第3弾『トゥーランドット』を上演

Bunkamuraでは開館初年度の1989年から「Bunkamuraオペラ劇場」と銘打ってオペラの自主制作に挑戦し、『魔笛(まほうのふえ)』や『マダム・バタフライ』など名作オペラを新しい視点からとらえ直しました。そして1999年4月にはBunkamura10周年のメイン企画として、エディンバラ国際フェスティバルとの共同制作オペラ『トゥーランドット』を上演しました。
この企画は、東洋を題材にしたオペラを東洋人のスタッフとキャストで再現し、世界に向けて発信することを目指したもの。特に話題を集めたのが、舞台表現に深い造詣を持つ井上道義が指揮、コンテンポラリーダンスの旗手・勅使川原三郎がオペラの初演出を務めるという異色のタッグです。勅使川原は洗練された美意識と舞台づくりを徹底し、さらに実力派の日本人・中国人歌手だけでなくダンサーも使って物語を生き生きと躍動させ、西洋の借り物ではないオリジナルの『トゥーランドット』を創造。オーチャードホールでの公演が大盛況のうちに幕を閉じた後、同年8月にはエディンバラ国際フェスティバルの名誉あるオープニングを飾り、西洋人にとって革新的な『トゥーランドット』は熱狂的に迎えられたのでした。

コンテンポラリーダンスの旗手・勅使川原三郎が演出・衣装・美術・照明を手がけ、舞踊的な動感を重視したパフォーマンスや独自の芸術美学で観客を魅了。ヨーロッパやアメリカの主要オーケストラにも認められる実力を持つ井上道義によるダイナミックな音楽づくりと相まって、オペラの新たな可能性を切り開きました。

●シアターコクーン:蜷川幸雄と野田秀樹が同じ台本で演出対決!『パンドラの鐘』を世田谷パブリックシアターと同時上演

1999年1月にシアターコクーンの芸術監督に就任し、就任会見で「演劇界を刺激する企画を」と語った蜷川幸雄が、その言葉にたがわぬ夢のコラボを実現しました。まず野田秀樹に台本の書き下ろしを依頼し、完成した『パンドラの鐘』を蜷川自ら演出して11月から12月までシアターコクーンで上演。さらに、台本を書いているうちに自分で演出したくなったという野田に蜷川との競演を快諾し、野田演出版『パンドラの鐘』を世田谷パブリックシアターで同時上演したのです。

シアターコクーンで行われた合同制作発表会には、演出を務める蜷川幸雄と野田秀樹のほか、蜷川版・野田版それぞれのキャストも出席。異例の競演について蜷川は「お互いの手の内を読みながら競い合うのはとても楽しいこと。お客さんも両方観て、その楽しみに参加してほしい」と語りました。

戦前の長崎での発掘作業から物語の幕を開ける本作は、蜷川が「挑戦に満ちた非常に面白い台本」と絶賛するように、現代と古代を交錯させながら重厚なテーマを浮き彫りにする意欲作。野田がセットを作らず舞台を観客の想像に委ねたのに対して、蜷川は発掘現場や物語の中軸となる鐘のセットをリアルにステージ上に作り出し、「抽象の野田vs具象の蜷川」というコントラストが生まれました。キャストに関しても、天海祐希、堤真一、古田新太らが出演した野田版に対して、蜷川版は大竹しのぶ、勝村政信、生瀬勝久のほかに演出家の壤晴彦や大衆演劇の座長・沢竜二などパワフルな面々が集結。日本トップの演出家2人がそれぞれ対照的なバージョンを魅せる対決は、演劇界を大いに盛り上げました。


蜷川作品初出演となる大竹しのぶをはじめとする実力派俳優陣のほか、井手らっきょや大富士ら個性派、さらに演出家の壤晴彦や大衆演劇の座長・沢竜二を配する色とりどりのキャスティングが実現。「彼らが野田の台詞をしゃべることで、違和感とザラザラ感を出して、ノイジーな舞台にしたい」という蜷川の思い通り、野田ワールドに染まらない独自の舞台となりました。


番外編も含めてNODA・MAPの10作目を飾った野田版『パンドラの鐘』。天海祐希と堤真一を主演に迎え、古田新太、富田靖子、松尾スズキ、銀粉蝶、八嶋智人などNODA・MAPならではの魅力的なキャストが集結。シアターコクーンよりも一回り小さな世田谷パブリックシアター(約600席)で、濃密な野田ワールドを魅せました。

▼ザ・ミュージアム:炎の画家ゴッホの名作を一堂に展示!『クレラー=ミュラー美術館所蔵 ゴッホ展』開催

わずか37年間という短い生涯の間に、素描も含めて2000点以上の作品を描き上げた、不世出の画家ゴッホ。激情を感じさせる筆致と大胆な色使いが特徴的な彼の作品は、日本はもちろん世界中で人気があるため貸し出しが難しく、それらの作品を一堂に集めた展覧会はあまり多くありません。そんな中、270余点にも及ぶゴッホの作品を所蔵しているクレラー=ミュラー美術館の協力によって、1999年11月から大規模な『ゴッホ展』を開催しました。
本展では、クレラー=ミュラー美術館から選りすぐった傑作74点(油彩32点、水彩・素描など42点)を出品。その中には、ゴッホにとって心の師であるミレーの代表作を参考にした<種まく人>や、パリに滞在していた時期に描いた<自画像>などの有名作のほか、日本初公開の貴重な作品も。74点というまとまった点数を展示することで、働く人々を暗い色調で描いたオランダ時代から、終焉の地オーヴェール=シュル=オワーズ時代まで、ゴッホが絵を描いた10年間の軌跡を余すところなくたどることのできる展覧会となりました。

270余点にも及ぶゴッホの作品を所蔵していることから世界中に“ゴッホの美術館”として知られるオランダのクレラー=ミュラー美術館の協力で実現した『ゴッホ展』。<種まく人><自画像>などの油彩32点と、<じゃがいもを食べる人々>をはじめとする水彩・素描42点を展示するという、ゴッホ作品をまとまって鑑賞できるまたとない展覧会に多くの人々が詰めかけました。

◆ル・シネマ:日本人に愛されるパトリス・ルコント監督作『橋の上の娘』を上映

『髪結いの亭主』『仕立て屋の恋』など、官能的な映像美を特徴とする多彩な作品で人気を集めるパトリス・ルコント監督。ル・シネマでは1991年に『髪結いの亭主』を初紹介し、日本でのルコント人気の火付け役となりました。そして1999年12月、ル・シネマにおける上映5本目となるルコント監督作『橋の上の娘』を公開しました。
大人の恋愛映画の名手として知られるルコント監督ですが、本作のように恋愛をメインテーマにした作品は、実は『髪結いの亭主』以来10年ぶり。人生を見失った曲芸師と愛を見失った娘が交わす想いを、ナイフ投げとその的という距離感を保つことでとことんストイックに紡ぎ出しています。的になった女性が背後の板にナイフが刺さった衝撃によって陥る、めくるめく陶酔の境地は、ルコントにしか描けない真骨頂。主役を演じたダニエル・オートゥイユとヴァネッサ・パラディのセクシーな魅力、そして陰影の少ないシャープなモノクロ映像と相まって、訪れた観客たちを幻想的な愛の世界へと誘いました。

大人の恋愛映画の名手として知られるパトリス・ルコント監督が10年ぶりに手がけた愛の物語『橋の上の娘』。ナイフ投げの曲芸師とその標的となる女性は、劇中で常に一定の距離を置いているにもかかわらず、二人の関係はどんな恋愛映画よりも官能的。ヒロイン役ヴァネッサ・パラディの天真爛漫な魅力も引き出し、魅惑的な愛の世界を描き出しました。

◎Bunkamuraが「メセナ大賞1999」を受賞

企業によるメセナ(芸術文化振興による豊かな社会創造)の充実と社会からの関心を高めることを目的に、1991年に創設されたメセナ大賞(現・メセナアワード)。企業が前年度に実施した活動を自薦・他薦で公募し、特に優れた活動を毎年表彰しています。1999年には、同年に開館10周年を迎えたBunkamuraの企画・運営・施設管理にあたる株式会社東急文化村がメセナ大賞を受賞しました。
メセナ大賞の受賞ポイントとなったのは、ホール・劇場・ 映画館・美術館からなる複合文化施設の運営において、採算よりもテーマ性や先見性のある質の高い企画を行うことを優先し、各施設のカラーに合った多彩な文化活動を実施し続けたこと。また、文化・芸術の第一線で活躍する方々の声を活かしたプロデューサーズ・オフィス、企業からの継続的な資金援助によるオフィシャルサプライヤー制などの独自の運営システムや、「オーチャードホールアワード」「Bunkamuraドゥマゴ文学賞」といった新しい才能の発掘・育成を行う活動などが高く評価されました。こうした文化支援の姿勢への社会的な評価に応える形で、その後も優れた文化をより多くの人々に届ける努力を続けています。

メセナ大賞(2004年より「メセナアワード」に改称)とは、前年度に実施された企業のメセナ(芸術文化振興による豊かな社会創造)活動を対象に選考を行い、特に優れた活動を顕彰するもの。メセナ・ブーム以前の1989年から多彩な文化芸術の企画を実施し、新たな文化を創出した複合文化施設Bunkamuraの運営が高く評価され、大賞を受賞しました。

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