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【1992年のBunkamura】ボストン美術館の印象派コレクションが来日!名匠パトリス・ルコントを日本初紹介

「Bunkamura History」では、1989年にBunkamuraが誕生してから現在までの歴史を通じて、Bunkamuraが文化芸術の発展にどんな役割を果たしたか、また様々な公演によってどのような文化を発信したのか振り返ります。今回は、1992年に各施設で行った公演や展覧会を紹介します。


■オーチャードホール①:現在の『N響オーチャード定期』に続く『N響オーチャード・スペシャル』がスタート

日本を代表するオーケストラとして歴史的名演を数多く残しているNHK交響楽団(N響)がオーチャードホールで初めて公演を行ったのは、1989年9月に開催された『ベートーヴェン・チクルス(オーチャードホールと日本のオーケストラ・シリーズ1)』でのこと。それから3年後の1992年10月、N響によるオーチャードホールでの定期的な公演として『N響オーチャード・スペシャル』がスタートしました。
記念すべき第1回で演奏されたのは、モーツァルトの交響曲第32番、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番、ショスタコーヴィチの交響曲第5番。高関健が指揮、ヴァイオリニストの石川静がソリストを務め、N響との豊かなハーモニーで聴衆を魅了しました。その後も毎年、N響を中心に国内外から異なる指揮者とソリストを迎え、また出演者にふさわしいプログラムをセレクト。人気公演として回数を重ね、1998年から始まるシリーズ公演『N響オーチャード定期』の礎を築いていったのです。


日本を代表するオーケストラのNHK交響楽団を中心とし、毎回異なる指揮者とソリストを迎え、出演者にふさわしいプログラムを選んだ『N響オーチャード・スペシャル』。第1回ではモーツァルトの交響曲第32番、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番、ショスタコーヴィチの交響曲第5番を演奏しました。

■オーチャードホール②:オフィシャルサプライヤー・スペシャル『未来の巨匠コンサート』がスタート


Bunkamuraオーチャードホールアワードは、ヨーロッパの伝統ある国際音楽コンクール委員会と運営事務局が協議を行い、優れた音楽家を受賞者として認定。また、対象をコンクール優勝者のみに限定せず、将来的に巨匠に育つ可能性を秘めた才能の持ち主に授与されました。

Bunkamuraは優れた文化芸術の発信だけでなく、その新たな担い手の発掘も積極的に行ってきました。その一つが、海外の伝統的な国際音楽コンクールと提携し、各コンクールに参加した優れた音楽家に日本での演奏機会と奨学金を提供する『Bunkamuraオーチャードホールアワード』です。この賞は1992年からスタートし、Bunkamuraのオフィシャルサプライヤー(Bunkamuraが制作する自主企画を、その自主性を尊重しながら長期的に支援する有志企業)を名前に冠した企画として定着。ベルリン・フィル首席フルート奏者エマニュエル・パユや、バイエルン放送交響楽団の元首席奏者フランソワ・ルルーなど、世界の第一線で活躍する一流の演奏家たちを数多く輩出しました。また、アワードの受賞者が出演し、世界トップクラスの演奏を聴かせる『未来の巨匠コンサート』もオーチャードホールで1992年から2000年まで毎年開催し、クラシック音楽界の未来を予感させるフレッシュな演奏で好評を博しました。

●シアターコクーン:アジア音楽の魅力を紹介する『Asian Fantasy』シリーズがスタート

『Asian Fantasy』シリーズは音楽家や楽曲のみならず声、楽器、時代性、地域性などいろいろな要素に着目し、公演日ごとに異なる方向性と内容のプログラムを設定。このように様々な方向からアプローチすることで、アジア各国で独自に育まれてきた音楽の多様な魅力を紹介しました。

「音楽はより演劇的に、演劇はより音楽的に」というコンセプトのもと、シアターコクーンでは開館以来、演劇だけでなく音楽公演も意欲的に開催していきました。1992年5月には、アジアの音楽家たちの“出会いと交流”、そして音楽を通じての人々の“理解”を大きな目的とする音楽祭『Asian Fantasy』を開催。その後1996年までシリーズ化しました。1992年の第1回ではシアターコクーン初代芸術監督の串田和美が演出を務め、日本・中国・韓国などから個性豊かなアーティストたちが集結。金子飛鳥をはじめアジア各国の擦弦楽器奏者を集めた「アジア擦弦楽団」や、山下洋輔=渡辺香津美ユニット・ソウル芸術団による「天地の響き」など、国境やジャンルを越えたパフォーマンスを繰り広げ、アジア音楽の多様な魅力を紹介しながら文化交流を果たしました。

▼ザ・ミュージアム:印象派の名品を一挙紹介した『モネと印象派 ボストン美術館展』


アメリカ三大美術館の一つに数えられるボストン美術館は、世界有数の印象派のコレクションを持つことでも知られています。その中から、フランスを代表する印象派画家モネを筆頭に、その先輩画家や同世代の画家たちの油彩画61点を厳選した展覧会『モネと印象派 ボストン美術館展』が1992年10月から開催しました。モネの作品は合計26点展示され、その中でも大きな目玉となったのが、最初の妻カミーユをモデルに描いた《ラ・ジャポネーズ》。侍が刺繍された深紅の打ち掛けを羽織った女性が扇子を手にポーズを取り、さらにその背後に団扇が散らされているという、いかにも西洋人が好みそうな東洋趣味にあふれる傑作です。代表作としておなじみの《睡蓮》シリーズとはまた違った大胆かつ豊かな色づかいと遊び心で、多くの来場者を魅了しました。

本展ではモネの作品26点を中心に、ピサロ、マネ、ドガ、シスレー、セザンヌ、ルノワール、ゴーギャンなど印象派・ポスト印象派の画家や、コローやミレーなどのバルビゾン派、クールベやブーダンら写実主義など、印象派を準備した巨匠25人の作品によってモネと印象派の時代を紹介しました。

◆ル・シネマ①:パトリス・ルコント監督を一躍日本に知らしめた『髪結いの亭主』

パトリス・ルコント監督が出世作『仕立て屋の恋』に続けて手がけた『髪結いの亭主』。主人公を演じるジャン・ロシュフォールの個性的な魅力、その妻を演じるアンナ・ガリエナの妖艶なエロティシズムが独特の味わいを放ち、フランス最大の映画賞・セザール賞で作品・監督・脚本賞含む7部門にノミネートされました。

ル・シネマでは開館以来ヨーロッパ映画、特にフランス映画に大きなこだわりを持って上映し、多くの優れた監督や人気俳優たちの注目作を日本に紹介してきました。彼らの中には、ル・シネマでの上映をきっかけに日本で存在を広く知られるようになったケースもあり、その筆頭が“大人の恋愛劇の名手”パトリス・ルコント監督です。ルコントは1989年の『仕立て屋の恋』をきっかけにその才能を世界的に注目されるようになりましたが、日本で彼の作品が初めて紹介されたのは次作の『髪結いの亭主』。幼い頃から髪結いの奥さんをもらうことだけを夢見てきたピュアな中年男性と美しき理髪師が交わす刹那的な愛を、「かほりたつ、官能」というキャッチコピー通り、五感を通して伝わってきそうなほど官能的な色香を匂わせながら描いた、まさに大人のための純愛ストーリーです。1991年12月からル・シネマで公開するや、女性客を中心にたちまち評判が広がり、翌1992年まで19週も上映する大ヒットを記録。そして同年7月には他館にて『仕立て屋の恋』もヒットし、「本国フランスよりも人気が高い」と言われるほどのルコント人気を日本で確立していったのです。

◆ル・シネマ②:名女優カトリーヌ・ドヌーヴが強く美しい女性を魅せた『インドシナ』

同じ男性を愛してしまった母娘の恋模様を、1億2000万フランもの製作費を投じて描いた超大作『インドシナ』。本国フランスで公開されるや、主演のカトリーヌ・ドヌーヴに対して「ガルボ、デートリッヒを超えた彼女の集大成となる作品」と絶賛されました。また、第65回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞しました。

ル・シネマの中心的なラインナップといえばフランス映画ですが、作家性の強い作品だけでなく、本国で全国公開されたような話題作も公開してきました。1992年4月にパリで封切られるや大ヒットを記録したカトリーヌ・ドヌーヴ主演作『インドシナ』も、同年10月にル・シネマで公開しました。1930年の仏領インドシナを舞台にした本作は、ベトナム、マレーシア、パリ、スイスを股にかけて約6か月間ロケが行われた超大作。ゴム農園のフランス人経営者とその娘が同じ男性を愛してしまうというメロドラマを叙情的かつエキゾチックに映しつつ、ヒロイン役ドヌーヴの気品とたくましさ、そして愛の強さで観客の心を揺さぶりました。ル・シネマで36週ものロングランヒットを記録し、グランドオープニング作品『カミーユ・クローデル』から続く “華やかな女性”路線をますます確固たるものにしたのです。

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