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【1995年のBunkamura】年末恒例『東急ジルベスターコンサート』スタート!

「Bunkamura History」では、1989年にBunkamuraが誕生してから現在までの歴史を通じて、Bunkamuraが文化芸術の発展にどんな役割を果たしたか、また様々な公演によってどのような文化を発信したのか振り返ります。第8回は、1995年に各施設で行った公演や展覧会を紹介します。


■オーチャードホール:年末の風物詩『東急ジルベスターコンサート』がスタート

大みそかの夜10時から開演し、誰もが親しみやすいクラシックの定番曲などをバラエティ豊かに演奏。そして年が変わる直前からカウントダウン曲を演奏し、キャノン砲の発射を合図に新年を迎える──。今では年末の風物詩としてすっかりおなじみとなった『東急ジルベスターコンサート』をオーチャードホールで初めて開催したのは、1995年12月31日のことでした。
記念すべき第1回は、世界的指揮者の大野和士と十束尚宏らが東京フィルハーモニー交響楽団を従え、ヴァイオリニストの前橋汀子、ピアニストの小山実稚恵、ソプラノにキンバリー・ジョーンズと塩田美奈子、テノールに錦織健というオールスターキャストが出演。クラシックの名曲のほか、サックス奏者の須川展也によるポール・マッカートニーの「マイ・ラヴ」や天台聲明音律研究会による聲明(お経に節をつけて唱える音楽)なども披露され、ラヴェルの『ボレロ』の演奏を終える瞬間に新年を迎えました。ちなみに、こうした演奏によるカウントダウンは大野が発案したもの。当日『ボレロ』を演奏中に1月1日0時まで時間が足りないことに気づくと指揮のスピードを速め、無事に0時ピッタリに演奏を終了したのです。


© K.Miura
1月1日0時になった瞬間、年越しを告げるキャノン砲が発射され大量の紙吹雪や紙テープが降る演出は『東急ジルベスターコンサート』の最大のハイライト。キャノン砲とタイミングを合わせて0時ピッタリに演奏が終了するかどうかは指揮者の腕の見せ所です。

●シアターコクーン:ロベール・ルパージュの超大作『HIROSHIMA 太田川七つの流れ』を上演


オリジナル作品のみならずオペラやシルク・ドゥ・ソレイユ作品などを幅広く手がけ、類まれな才能を発揮しているカナダ人演出家ロベール・ルパージュ。1990年代には、広島市を流れる太田川の7つの支流になぞらえた7部構成の演劇を、世界各地で公演を重ねて各国の文化を吸収しながら完成させていく『HIROSHIMA 太田川七つの流れ』にチャレンジしました。この意欲的な作品はワールドツアーで巡演され、1995年10月にシアターコクーンでの上演を経て、翌1996年にルパージュの地元カナダ・ケベック公演で7部作として完成。その後も世界ツアーで各地を巡演し、<20世紀人類史>と評されるほど絶賛を集めました。
本作は、広島に住み着いた女性写真家の人生を、フラッシュバックの手法を用いて現在と過去を往復しながら描く一大叙事詩。東京公演で上演したのは当時の最新バージョンである5部作で、上演時間は休憩をはさんで6時間にも及ぶという超大作。障子や鏡、影絵やプロジェクターなどの小道具や映像を巧みに使い、“映像の魔術師”ルパージュならではの幾重にも広がる時間や空間を舞台上に創造しました。

©Yutaka Suzuki
世界各地で公演を重ねながら7部作を完成させていく異例のスタイルで巡演された『HIROSHIMA 太田川七つの流れ』。人形劇あり、オペラのアリアあり、そして小道具や仕掛けを使い分けながら幻想的かつ写実的に物語っていくという、気鋭の演出家ロベール・ルパージュの本領が発揮された作品に仕上がりました。

▼ザ・ミュージアム:アメリカン・リアリズムの代表的画家『アンドリュー・ワイエス展』開催

20世紀のアメリカにおけるリアリズムを代表する画家として日本でも人気を集めるアンドリュー・ワイエス。自らが日常的に触れる田園生活を写実的かつ詩情豊かに描いた作品の数々は、アメリカの原風景そのものと高く評価されています。
そんなワイエスの画業を回顧する展覧会として、ザ・ミュージアムでは1995年4月から『アンドリュー・ワイエス展』を開催しました。メトロポリタン美術館の元館長でワイエスの研究者でもあるトーマス・ホーヴィングをゲストキュレーターに迎え、1930年代初期から始まる創作の軌跡を振り返るにふさわしい作品をセレクト。テンペラ、ドライブラッシュ、素描、水彩などの合計約140点によって構成した展覧会は、ワイエスの芸術世界の全体像を浮かび上がらせる充実したものとなりました。

のどかな田園地帯をモチーフにアメリカの原風景を描く画家として、母国のみならず世界中で人気を集めたアンドリュー・ワイエス。その独自の世界を表現する技法として彼が好んだテンペラ画を中心に、ドライブラッシュや水彩画など合計140点もの作品を展示し、過去のワイエス展をしのぐ充実した回顧展となりました。

◆ル・シネマ:イヴ・モンタンのドキュメンタリー『モンタン、パリに抱かれた男』を公開

シャンソン歌手として世に出て、俳優としても国際的な活躍を残したフランスの伊達男イヴ・モンタン。女優のシモーヌ・シニョレと結婚していましたが、彼女以外にもエディット・ピアフ、マリリン・モンローら魅惑的な女性たちと浮名を流した恋多き男でもありました。1991年に70歳でこの世を去った彼のドラマチックな生涯を綴ったドキュメンタリー『モンタン、パリに抱かれた男』を、ル・シネマで1995年に公開しました。
本作の監督ジャン・ラビブは60時間にも及ぶモンタンへのインタビューを敢行し、まるで観客が直接語りかけられている錯覚に陥るように彼のモノローグを編集。そして「枯葉」をはじめとするシャンソンのメロディをBGMに、貴重なプライベート映像や『恋をしましょう』『夕なぎ』など数々の名作のワンシーンを絡め、彼の歴史を1本の作品に凝縮。ノンフィクション以上にドラマ性にあふれた本作は、日本でもモンタンの人気が高いことから、ル・シネマでの上映時に大きな話題を集めました。

シャンソン歌手としてだけでなく俳優としても活躍し、「世界の恋人」と称されるほどの国際的人気を博したイヴ・モンタンのドキュメンタリー映画『モンタン、パリに抱かれた男』。本人へのインタビューのほか、出演作の名シーンやプライベート映像も交えてモンタンの魅力を凝縮し、多くの観客を魅了しました。

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