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【2003年のBunkamura】松尾スズキと中村勘三郎が異色のタッグ!女性画家フリーダ・カーロの展覧会と伝記映画上映も実現

「Bunkamura History」では、1989年にBunkamuraが誕生してから現在までの歴史を通じて、Bunkamuraが文化芸術の発展にどんな役割を果たしたか、また様々な公演によってどのような文化を発信したのか振り返ります。今回は、2003年に各施設で行った公演や展覧会を紹介します。


■オーチャードホール①:AMP&マシュー・ボーンの出世作にして大ヒット作『白鳥の湖』を上演

1987年に人気演出・振付家のマシュー・ボーンを中心に結成してから世界的な人気を集め、2002年4月には『ザ・カー・マン』で待望の初来日を果たしたロンドンのダンスカンパニー「アドベンチャーズ・イン・モーション・ピクチャーズ」(AMP)。その衝撃から1年にも満たない2003年2月に、ボーンの出世作にして空前の大ヒット作『白鳥の湖』をオーチャードホールで上演しました。
本作は1995年にロンドンで初演された後、ウエストエンドでバレエ史上初となる4ヵ月公演、そしてバレエ作品としては異例のブロードウェイ進出を果たし、ボーンとAMPが一躍脚光を集めるきっかけになった作品です。チュチュをまとった可憐な女性ではなく、たくましい男性ダンサーが白鳥を踊り、王子が一目惚れする娘の白鳥も自由奔放かつワイルドな男として描くなど、AMP版『白鳥の湖』は発想が実に大胆。その一方、クラシックバレエ版とは異なる普遍的なストーリーをドラマティックに描き出し、現代の観客の胸を打ちました。また本公演では東京バレエ団プリンシパルダンサーの首藤康之が、AMP版『白鳥の湖』のオリジナルキャストであるアダム・クーパーと共に白鳥役を務め、情熱と慈愛に満ち溢れたダンスを披露したことでも話題を集めました。

AMP版『白鳥の湖』の初演で国際的な名声を得た元英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルのアダム・クーパーをはじめ、東京バレエ団プリンシパルダンサーの首藤康之、スペイン国立ダンス・カンパニーなどでプリンシパルを務めたジーザス・バスターが白鳥役を演じるという豪華なトリプル・キャストが実現。それぞれ個性が異なる“三者三様の白鳥”は大きな注目を集めました。

■オーチャードホール②:イタリア、トリエステよりジュゼッペ・ヴェルディ歌劇場が待望の初来日!

1801年に北イタリアのトリエステ市に誕生して以来、ヴェルディのオペラを2作品初演するなど華々しい歴史を重ね、ヴェルディを称えてその名を冠したジュゼッペ・ヴェルディ歌劇場。この名門オペラハウスの待望の初来日公演『ジュゼッペ・ヴェルディ歌劇場 トリエステ・オペラ』が2003年6月にオーチャードホールで実現しました。
記念すべき初来日公演の演目は、悲劇的な題材を取り扱うオペラ・セリアにあたるロッシーニの日本初演作『タンクレディ』と、ドニゼッティの傑作ベルカント・オペラ『ランメルモールのルチア』。いずれも高い芸術性と歌唱力を持つ歌手が不可欠な作品ですが、『タンクレディ』にはロッシーニ歌手の第一人者ダニエラ・バルチェッローナ、『ランメルモールのルチア』には美貌と実力を兼ね備えたソプラノ歌手ステファニア・ボンファデッリと“ポスト3大テノール”の一人と称されたマルセロ・アルバレスが出演。さらに『ランメルモールのルチア』はイタリア・オペラを得意とするダニエル・オーレンが指揮を務めるという最高の布陣で、名門歌劇場のステージの興奮と感動を本場からそのまま届けました。

日本初演となったロッシーニの『タンクレディ』でタイトルロールを務めたメゾ・ソプラノ歌手ダニエラ・バルチェッローナは、ジュゼッペ・ヴェルディ歌劇場のお膝元であるトリエステ出身。暖かくて力のある声と高い歌唱力を備えた彼女の持ち味を最大限に発揮できる作品であり、“我が町のスター”の魅力を伝えようという名門歌劇場の心意気が存分に伝わる公演となりました。

●シアターコクーン:松尾スズキが中村勘三郎を主演に迎えた時代劇大作『ニンゲン御破産』を上演

1988年に旗揚げした「大人計画」を率いる鬼才演出家であり、2000年に初挑戦のミュージカル『キレイ -神様と待ち合わせした女-』でシアターコクーン初進出を果たした松尾スズキ(現シアターコクーン芸術監督)。それから3年後の2003年2月、渋谷・コクーン歌舞伎でもお馴染み歌舞伎界の大御所・五代目中村勘九郎(十八代目中村勘三郎)を主演に迎え、またもや初挑戦のジャンルとなる時代劇『ニンゲン御破産』をシアターコクーンで上演しました。
奇しくも歌舞伎発祥400年という節目の年に実現した異色の組み合わせは、勘九郎から松尾へのラブコールがきっかけでした。幕末を舞台に、勘九郎が演じる武士の身分を捨ててまで歌舞伎作者になろうとする男を中心に、虚構と現実の間で真実の自分を見失っていく人々を描いた、まさにタイトル通り“ニンゲン御破産”な大河ドラマ。歌舞伎と同じ3幕構成(上演時間は約3時間半)で横文字を台詞に使わないなど歌舞伎のスタイルを意識しつつ、あらゆる舞台表現の垣根を取り払ってミックスし、シアターコクーンを松尾ワールドに染め上げました。

「コクーンでやる時は、自分が手をつけていないジャンルの話をやりたいという思いがある」という挑戦意欲にあふれる言葉通り、松尾スズキは歌舞伎界の大御所・中村勘九郎とのタッグで時代劇に初挑戦。勘九郎以外のキャストは気心の知れた個性派や実力派の俳優たちを集め、毒と笑いが利いた松尾ワールドを、歌あり踊りありの3幕仕立て超大作エンタテインメント作品へと昇華。型にハマらない面白さで観客の度肝を抜きました。

▼◆不世出の女性画家フリーダ・カーロの展覧会と伝記映画の連動企画をザ・ミュージアムとル・シネマで実施

Bunkamuraでは開館以来、共通のテーマによる演奏会・展覧会・映画上映などをそれぞれの施設で行う、複合文化施設ならではの連動企画を幾度も実現してきました。2003年7月には、メキシコを代表する女性画家フリーダ・カーロをクローズアップした企画展『フリーダ・カーロとその時代 メキシコの女性シュルレアリストたち』をザ・ミュージアムで開催するとともに、名優サルマ・ハエックがカーロに扮する伝記映画『フリーダ』をル・シネマで上映しました。
『フリーダ・カーロとその時代』は、カーロの代表作を所蔵するゲルマン・コレクションを中心に、レオノーラ・キャリントン、マリア・イスキエルド、レメディオス・バロ、アリス・ラオンらフリーダと同時代の女性シュルレアリスト画家5人の作品約80点で構成。同じ女性シュルレアリストの絵画でありながら、メキシコ生まれのカーロとイスキエルドは土着性を感じさせ、外国からの亡命者である他3人との魅力的な対比が浮き彫りに。さらに、彼女たちと交流があった女性写真家ローラ・アルバレス・ブラボとカティ・オルナの作品約50点も展示し、激動の時代にあった情熱の国メキシコを強く意識させる展覧会となりました。
一方、カーロの激動の生涯と強烈な個性を再現したのが映画『フリーダ』。少女時代から母国の英雄カーロの大ファンだったというサルマ・ハエックが主演とプロデューサーを兼任し、壮絶な人生の中で絵筆を執り続けた彼女のエネルギッシュな生きざまを「フリーダはもはや私の人生の一部」と断言するほど全身全霊で成りきって熱演。さらに、ブロードウェイ・ミュージカル『ライオン・キング』など演劇やオペラの演出家として名を馳せたジュリー・テイモアが監督を務め、モーフィングの技術で実写と絵画をシームレスにリンクさせる斬新なビジュアライズによってカーロの絵画世界を表現。不世出の芸術家として、そして一人の女性としてのカーロの実像を観客に強く印象づけました。


フリーダ・カーロを中心に激動期のメキシコで活躍した女性画家・写真家たちの作品を集めた企画展『フリーダ・カーロとその時代』をザ・ミュージアムで開催し、同じ時期にル・シネマでもカーロの伝記映画『フリーダ』を上映。東急百貨店の本店と東横店を往復するシャトルバスのラッピングや、ディスプレイウィンドウでも大々的にアピールし、Bunkamuraならではの連動企画は大きな注目を集めました。

▼ザ・ミュージアム:“農民画家”ミレーの名作とともに自然主義を見直す『ミレー3大名画展 ヨーロッパ自然主義の画家たち』を開催

ミレーは19世紀フランスの“自然主義”を特徴とするバルビゾン派を代表する画家で、農民の生活をありのままに描いた作品の数々で知られています。そんな彼の作品の中でもとりわけ完成度が高く“3大名画”と称えられる《晩鐘》《落穂拾い》《羊飼いの少女》が日本で初めて一堂に会する企画展『ミレー3大名画展 ヨーロッパ自然主義の画家たち』を、2003年4月からザ・ミュージアムで開催しました。
本展はパリのオルセー美術館と共同企画したもので、合計73点の展示作品のうち51点が日本初公開。同館所蔵の《晩鐘》《落穂拾い》《羊飼いの少女》をはじめとするミレーの作品21点のほか、クールベやバスティアン=ルパージュ、さらに自然主義の観点からとらえたゴッホ、ゴーギャン、ピカソ、ピサロらの作品も展示。19世紀ヨーロッパ自然主義の流れをくむ作家たちの名作を、日本で初めて体系的に紹介する展覧会となりました。

パリのオルセー美術館との共同企画展『ミレー3大名画展 ヨーロッパ自然主義の画家たち』の最大の目玉は、ミレーの作品の中でも完成度が高いと言われている《落穂拾い》(上写真の最左)、《晩鐘》(下写真)、《羊飼いの少女》(中央右)。農村の日常生活を素直な絵画表現で伝えるミレーの傑作が、自らの生きている時代を写実的に再現する自然主義の画家たちの作品と並び、訪れる人たちに生きる意味を問いかけました。

◆ル・シネマ:女優たちの本音に迫る渾身のドキュメンタリー『デブラ・ウィンガーを探して』を上映

映画の大きな魅力といえば、スクリーンを華やかに彩る女優たち。しかし、女優に対して美や若さを求める傾向にあるハリウッドにおいて、彼女たちが第一線で活躍し続けることは容易ではありません。そんな女優の実態と本音に迫ったドキュメンタリー『デブラ・ウィンガーを探して』を、2003年6月からル・シネマで上映しました。
本作でメガホンを握ったのは、『グラン・ブルー』などで女優として確固たるキャリアを築いたロザンナ・アークエット。子どもを産んで40代を迎え、仕事と家族を持つ女性としての悩みを抱えていた彼女が、『愛と青春の旅だち』で一躍スターとなりながら突然引退したデブラ・ウィンガーに会いたい!と熱望するようになったのが製作のきっかけでした。特筆すべきは、メグ・ライアンやホリー・ハンターらハリウッド女優34人へのインタビュー。似た境遇にいることをアークエット自ら示すことで有名女優たちの本音と飾らない姿を引き出し、同じように“女性ゆえの生きづらさ”を身近に覚える観客たちの共感を誘いました。

ロザンナ・アークエットがインタビュー取材を敢行する相手として34人ものハリウッド女優が登場するという、豪華な“キャスティング”が実現した『デブラ・ウィンガーを探して』。仕事と家庭の両立、加齢への悩みなど、俳優活動を続ける中で彼女たちが直面したテーマを、スターならではの機知とユーモアに富んだ言葉で率直かつ赤裸々に語り、見る者をグイグイ引き込むドキュメンタリーに仕上がりました。

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