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【1998年のBunkamura】ピカソの全館横断企画を開催!N響オーチャード定期も新たにスタート

「Bunkamura History」では、1989年にBunkamuraが誕生してから現在までの歴史を通じて、Bunkamuraが文化芸術の発展にどんな役割を果たしたか、また様々な公演によってどのような文化を発信したのか振り返ります。第11回は、1998年に各施設で行った公演や展覧会を紹介します。


ピカソをテーマにした全館横断企画を実施(■オーチャードホール:『ピカソとダンス』 ▼ザ・ミュージアム:『ピカソ展』『ピカソと写真展』 ◆ル・シネマ:『ミステリアス ピカソ 天才の秘密』)

Bunkamuraでは長い歴史の中で、全館をイギリス一色に染めた1990年の「UK'90」のように、複合文化施設の強みを生かした横断ラインナップを幾度も開催。1998年にはピカソをテーマに、オーチャードホールで『ピカソとダンス』、ザ・ミュージアムで『ピカソ展』と『ピカソと写真展』、ル・シネマで『ミステリアス ピカソ 天才の秘密』という連動企画を実施しました。
いずれの企画も、巨匠ピカソの創造の源泉を新しい視点から探るもので、『ピカソとダンス』では芸術家ピカソが舞台美術家を務めたバレエ作品を上演。ピカソのオリジナルデザインによる緞帳(どんちょう)を使用する『イカルス』などの4作品をラインナップし、パリ・オペラ座の17人のエトワールやソリストが競演する夢のダンスパフォーマンスを披露しました。

『ピカソとダンス』では世界初演の新作『サルティンバンコ』のほか『牧神の午後』『イカルス』『ランデヴー』の全4演目を上演。当時のパリ・オペラ座で人気・実力ともにナンバー1だったエトワール のニコラ・ル・リッシュをはじめ、本公演のアートディレクターも 務めたカデール・ベラルビら17人のスターダンサーが競演し、夢のダンスパフォーマンスを繰り広げました。

ザ・ミュージアムでの展覧会『ピカソ展』も、“ピカソを取り巻く人々が創造のインスピレーションとエネルギーを与えた”という観点から、彼らの肖像画を中心とした作品約150点を展覧することで、ピカソ自身とその多様な芸術性に迫る意欲的なもの。また『ピカソと写真展』では、ピカソが撮った写真、ピカソが絵画制作の参考にした写真、ピカソがデッサンや文字を加えた写真、ピカソが撮影された写真という4つの展示分類で、写真というメディアとピカソの関係を探りました。


ピカソの膨大な作品群を振り返ると、時代によって作風が目まぐるしく変化しても、彼の友人やマリー=テレーズ・ワルテルら愛する女性たちなど、身の回りにいた人々が描かれ続けていました。『ピカソ展』では彼らを描いたポートレートなどを展示し、異なる作風においても共通する巨匠の創造の源泉を探りました。
『ピカソと写真展』では、パリのピカソ美術館に収蔵されている約5000枚の写真から約250点を選び出し、創作アイデアの源泉となった写真や、ピカソが自らカメラをとって撮影した貴重な写真などを展示。絵画などの美術作品とは違った観点から、ピカソの創造の過程を理解できる展覧会となりました。

さらにル・シネマでは、フランスの巨匠アンリ=ジョルジュ・クルーゾーが、ピカソの制作過程をフィルムに記録した、美術史的にも非常に貴重なドキュメンタリー『ミステリアス ピカソ 天才の秘密』を特別モーニングロードショーとして上映。こうした複合文化施設ならではの全館連動企画は、絵画のみならずジャンルにとらわれない縦横無尽な活躍を残した、多才な巨匠ピカソの創作エネルギーに多角的に触れることのできるまたとない機会として大きな話題を集めました。

■オーチャードホール:今もなお続く人気シリーズ『N響オーチャード定期』がスタート

開館以来“TOPS”の愛称で親しまれてきたオリジナル企画『東京フィルオーチャードポップス』が最終回を迎えた1998年、オーチャードホールで新しい音楽シリーズが誕生しました。日本屈指のオーケストラであるNHK交響楽団の定期演奏会で、現在まで続いている『N響オーチャード定期』です。
これは、1992年から『N響オーチャード・スペシャル』と題して年2~3回行ってきた特別演奏会が、年5回の定期演奏会スタイルに生まれ変わったもの。1998年9月に開催した記念すべき第1回定期演奏会では、作品の持ち味をありのままに引き出すことに定評のある指揮者マレク・ヤノフスキの元、ロッシーニの初期作品「絹のはしご」序曲、サン=サーンスの組曲「動物の謝肉祭」、そしてベートーヴェンの交響曲第6番「田園」を演奏。親しみやすいプログラムを交え、多くの方々に楽しみながらじっくりと聴いていただけるコンサートを目指し、シリーズの第一歩を踏み出しました。

1998年9月からスタートした『N響オーチャード定期』。その新シリーズは“組曲(スウィート)なひととき”というサブタイトルを冠し、毎回プログラムの中で組曲もしくはそれに準じる曲をラインナップ。肩ひじ張らずリラックスできる雰囲気の中、日ごろクラシックに馴染みのない方でも楽しめるような演奏会にすることが目的で、第1回では巨匠マレク・ヤノフスキの指揮でサン=サーンスの組曲「動物の謝肉祭」などを演奏しました。

●シアターコクーン:開館時から続く中島みゆきの音楽舞台『夜会』

「音楽はより演劇的に、演劇はより音楽的に」というコンセプトを持つシアターコクーンでは、そのコンセプトを具現化した意欲的な公演を数多く上演しました。開館初年度の1989年から開催し、冬の風物詩として親しまれた中島みゆきの『夜会』もその一つです。
コンサートでもない、演劇でもない、ミュージカルでもない「言葉の実験劇場」をコンセプトとした「夜会」は、当初は既存の発表曲を中心に歌っていましたが、やがて中島みゆきが脚本・演出・主演を自ら務め、オリジナルストーリーに沿って書き下ろしたオリジナル曲を歌うスタイルへと進化し、同じ会場での連続開催という公演スタイルもまた画期的で、劇場空間だからこそ実現できる時空間を体験する独自の音楽舞台となりました。1989年の第一回目の「夜会」から1998年の夜会VOL.10「海嘯」まで毎年開催されましたが、以降は不定期に開催され、2004年の夜会VOL.13「24時着 0時発」まで全11演目、293回上演されました。

© Yamaha Music Entertainment Holdings, Inc.
中島みゆきが脚本・演出と作詞作曲を務める音楽舞台『夜会』。1989年から1998年の夜会VOL.10「海嘯(かいしょう。津波のこと)」まで、シアターコクーンで毎年年末に上演されました。本作ではそれまでの『夜会』で特徴的だった一人芝居の要素が薄れ、植野葉子や張春祥らキャスト陣との掛け合いによる演劇的要素がより強いものに変化しました。11作目以降も2004年の夜会VOL.13「24時着 0時発」まで不定期に開催されました。

▼ザ・ミュージアム:19世紀から花開いたイギリス芸術文化の軌跡を追う『英国ロマン派展 ヴィクトリアン・イマジネーション』を開催

中世から近代にかけて世界の覇権を握ったイギリスは、こと芸術の分野においてはフランスやイタリアに比べて存在感が薄く、遅れを取っていました。それでも19世紀になるとロマン派やラファエル前派によって芸術文化の花が開き、イギリス絵画は黄金期を迎えたのです。そうした時代において活躍した画家たちにスポットライトを当てた展覧会『英国ロマン派展』を、ザ・ミュージアムで1998年1月に開催しました。
本展は、従来のアカデミズムに反発して初期ルネサンス芸術への回帰を目指したラファエル前派の代表格ロセッティをはじめ、その洗練された耽美主義の傾向を受け継いで象徴主義の先駆者となったバーン=ジョーンズやワッツら、イギリス画家55人の作品約90点で構成。空想の世界にロマンを求め、さまざまな傾向をもちながら共通の雰囲気をたたえたヴィクトリアン・アートの本質に触れる展覧会となりました。

『英国ロマン派展』では、19世紀後半から20世紀初頭にかけての画家55人の油彩・水彩90余点を展示。古典主義からの脱却を目指したラファエル前派、その系譜を引き継いだ象徴主義絵画、そして自然主義的な写実よりも理想や虚構を追究した古典主義的傾向まで、ヴィクトリアン・アートの軌跡を振り返りました。

◆ル・シネマ:女の子になりたいと願う少年のピュアな想いを綴った『ぼくのバラ色の人生』を上映

ル・シネマではすでに人気や地位を獲得している監督や俳優の作品だけでなく、まだ日本で広く知られていない新たな才能も積極的に紹介。1998年11月には、ベルギーの俊英アラン・ベルリネール監督の長編デビュー作にして、ゴールデングローブ賞の最優秀外国語映画賞にも輝いた話題作『ぼくのバラ色の人生』を上映しました。
本作の最大の魅力は、「女の子になりたい」と夢見て、スカートをはいたりルージュを塗ったり着せ替え人形で遊ぶ主人公リュドヴィックの愛らしさ。劇中の設定は7歳なのに対して演じたジョルジュ・デュ・フレネは当時11歳。周囲の大人に理解されないピュアな願いを抱く少年の健気さを、愛くるしい表情と抜群の演技力で体現。また、“人とは違う”という周囲の認識が生む差別の問題にも切り込みながら、ベルリネール監督が軽やかに綴るポップかつキュートな映像にも多くの観客が魅了されました。

まだLGBTという言葉もなかった時代に、トランスジェンダーの少年とその家族が周囲の偏見にさらされながら絆を深めていく姿を描いた『ぼくのバラ色の人生』。主人公の7歳の少年リュドヴィックがとにかく魅力的で、前年の1997年にロングランヒットを記録した『ポネット』に続き、健気で愛くるしい子どもが観客のハートをわしづかみにしました。

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