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【1996年のBunkamura】オンシアター自由劇場最終公演『黄昏のボードビル』を上演

「Bunkamura History」では、1989年にBunkamuraが誕生してから現在までの歴史を通じて、Bunkamuraが文化芸術の発展にどんな役割を果たしたか、また様々な公演によってどのような文化を発信したのか振り返ります。今回は、1996年に各施設で行った公演や展覧会を紹介します。


■オーチャードホール:ガーシュウィンの隠れた名作オペラ『ポーギーとベス』を再上演

20世紀アメリカを代表する偉大な作曲家ジョージ・ガーシュウィンは、クラシック音楽とポピュラー音楽の両面で活躍し、シンフォニック・ジャズと呼ばれる『ラプソディ・イン・ブルー』など数多くの名曲を残しました。ポピュラー音楽では「サマータイム」が有名ですが、この曲が劇中で歌われるオペラ『ポーギーとベス』が披露される機会は意外と多くありません。それは日本でも同様で、1991年のオーチャードホールでの公演が日本初演でした。それから5年後の1996年1月、ヒューストン・グランド・オペラ版での公演がオーチャードホールで再び実現しました。
本作は1920年代のアメリカ南部の町に住む貧しい黒人の生活を描いたもので、登場人物はごく数名の白人を除いてすべて黒人。ミュージカル、ジャズ、黒人音楽、クラシックなど様々な技法を詰め込んだ、ガーシュウィンの集大成的な作品です。本公演は黒人女性が初めて演出を務めた新演出版で、登場人物たちの人間模様を生き生きとドラマチックに描出。主人公のポーギーとベスをはじめ、歌唱力も演技のアンサンブルも素晴らしく、時代も国境も越えて日本の観客を魅了しました。

誰もが聴いたことのある「サマータイム」など名曲が満載ながら、貧しい黒人街で紡がれる哀しき純愛という重厚な内容ゆえか、上演される機会が意外と少ない『ポーギーとベス』。1996年のオーチャードホール公演は日本で5年ぶり2度目の上演で、ヒューストン・グランド・オペラの初来日公演でもありました。

●シアターコクーン:串田和美演出のオンシアター自由劇場最終公演『黄昏のボードビル』を上演

演出家の串田和美は1989年9月の開館からシアターコクーンの芸術監督を務め、自身が結成したオンシアター自由劇場をフランチャイズ劇団として独自のレパートリー制・シーズン制を確立しました。そして春秋の13シーズンを経た1996年、串田は芸術監督の任期を満了。さらに「劇団としての演劇活動にはいったん休止符を打ちたい」という意向を表明し、オンシアター自由劇場の最終公演『黄昏のボードビル』をシアターコクーンで上演しました。
本作は1980年の六本木自由劇場での初演から16年ぶりの上演で、串田によると「作家から渡された台本をそのまま上演したのではなく、劇団員全員がああでもないこうでもないと台本に関わり、時には大ゲンカをして練り続けた」という忘れられない作品。再演にあたっても、初演そのままではなく「今上演する意味を持たせた公演」を作り上げ、シアターコクーンでの有終の美を飾りました。

オンシアター自由劇場最終公演の演目に選ばれたのは、再演を望む声が多かったという『黄昏のボードビル』でした。本作は、昭和初期の浅草の射的屋を舞台に、時代の中を駆け抜けていった人々のコミカルな物語。最終公演にあたって新しい導入場面を増やし、元気でパワフルな作品に仕上がりました。

また、本作の公演期間中にはスペシャルプログラム『[ブラボー!ペリかん党]アヴィニョンのティンゲルタンゲル』も上演。『ティンゲルタンゲル』は、神出鬼没かつ変幻自在なぺりかん党のメンバーに扮した俳優たちが、舞台と客席が一体になるお祭り騒ぎを繰り広げる音楽劇。シアターコクーンで1989年の開館時から毎年上演してきた人気演目で、1995年7月にアヴィニョン演劇祭で大好評を博した決定版を最終公演で披露しました。

『黄昏のボードビル』と共に最終公演を飾った『ティンゲルタンゲル』は、自由劇場の俳優たちが役者よりも芸人としての個性を表出するシアターコクーンの定番公演。ぺりかん党の面々が観客と一体となってバラエティに富んだ舞台を繰り広げ、30年間の劇団活動を笑顔で締めくくりました。

▼ザ・ミュージアム:歴史に埋もれた天才女性彫刻家『カミーユ・クローデル展』開催
◆ル・シネマ:伝記映画『カミーユ・クローデル』をリバイバル上映

彫刻家オーギュスト・ロダンの弟子であり愛人で、芸術史において長らく陰に隠れた存在だった女性彫刻家カミーユ・クローデル。1984年のパリ・ロダン美術館での回顧展でようやく再評価され、日本でも1987年に初の回顧展(渋谷の東急百貨店本店を皮切りに全国を巡回)、1989年にル・シネマでの伝記映画上映を通じて関心が高まっていきました。そして1996年6月、約10年ぶりの『カミーユ・クローデル展』がザ・ミュージアムで開催となりました。
本展では、カミーユの弟の孫にあたるクローデル研究家レーヌ=マリー・パリスの協力を得て、日本初公開の作品を含む彫刻約60点を中心に、師ロダンの彫刻作品や油彩・デッサン・手紙などの貴重な資料も展示。新たな研究結果を踏まえ、同一テーマの様々な素材やバリエーションの作品を比較展示するという、今まで以上に彫刻家クローデルの実像が伝わる展覧会となりました。
また、この回顧展に合わせて、1989年にル・シネマのグランドオープニングを飾り41週ものロングランヒットを記録した伝記映画『カミーユ・クローデル』もリバイバル上映。クローデルの彫刻家としての業績に展覧会で触れ、生身の人間としての存在感を映画で感じるという、複合文化施設ならではの文化体験を提供しました。

彫刻作品の美術史的価値だけでなく、師ロダンとの愛と破局の末に悲劇的な末路を辿るという劇的な生涯が広く知られ、長い歳月を経てようやく注目を浴びたカミーユ・クローデル。ザ・ミュージアムで彫刻作品を、ル・シネマで伝記映画を鑑賞できる連動企画は、Bunkamuraならではの企画として好評を博しました。

◆ル・シネマ:レオナルド・ディカプリオの美の絶頂期!文芸ドラマ『太陽と月に背いて』がヒット

今やオスカー俳優でもある不動の人気スター、レオナルド・ディカプリオは、19歳で出演した『ギルバート・グレイプ』(1993年)で一躍注目され、色気と演技力を兼ね備えた大人の俳優へと成長を遂げていきました。その過渡期の代表的な作品『太陽と月に背いて』を、ル・シネマでは1996年10月から上映しました。
本作は、19世紀フランスを代表する天才詩人のランボーとヴェルレーヌが交わした破滅的な愛の物語。ランボーを演じたディカプリオは、あどけない表情に射るような眼差しを時折見せ、その悪魔的な美しさで10歳以上年上のヴェルレーヌを魅了する“残酷な天使”を熱演しました。ディカプリオの美しさに魅せられ、従来のル・シネマファンのみならず、10代や20代の若年層が多く足を運ぶヒットを記録しました。

19世紀フランス象徴主義の代表的詩人であるランボーとヴェルレーヌが宿命的な愛に身を焦がし、さらにその関係をお互いの代表作に結晶させていく様を描いた『太陽と月に背いて』。人間としても俳優としても成熟途上にあったレオナルド・ディカプリオが、悪魔のように美しいランボーを熱演し、多くの観客を魅了しました。

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