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マエストロとオーケストラとのつなぎ役/副指揮者の仕事
文化芸術を支える“裏方の役割”にスポットライトを当てる「Behind Bunka」。今回は副指揮者の仕事に迫ります。NHK交響楽団でパーヴォ・ヤルヴィのアシスタントや指揮研究員を務め、ORCHARD PRODUCEシリーズのオペラ《魔笛》でも副指揮者を務めた、指揮者の平石章人さんにお話を伺いました。
N響の指揮研究員として学んだこと
筆者がはじめて平石章人さんを知ったのは2023年11月。NHK交響楽団の定期演奏会に出演予定だったウラディーミル・フェドセーエフの来日が中止となり、代役として当時同団の指揮研究員を務めていた平石さんが指揮台に立ったときでした。
「2021年9月からパーヴォ・ヤルヴィさんのアシスタントとしてN響と関わりを持つようになりました。その後、首席指揮者がヤルヴィさんからファビオ・ルイージさんに代わったとき、N響はかつてあった“指揮研究員”という名前を復活させ、オーケストラ付きの副指揮者のような立ち位置のポジションを設けました。私は2022年から2024年まで務めました。
マエストロ(指揮者)個人のアシスタントという形の副指揮者もいますが、N響の場合はオーケストラのアシストをするという形でしたので、マエストロは入れ替わり立ち代わりにやってきます。副指揮者に対して“なんでもどんどん提案してね”と言って積極的にコミュニケーションをとる方もいますし、あまり話さずに“なにか質問があったらどうぞ”という方もいるので、関わり方はマエストロによってまったく違いました」
自身の指揮活動と並行して、副指揮者としても経験を積みながら指揮者としてステップアップしていく方も多いように、マエストロの仕事ぶりを間近に見ることで学ぶものは大きいと平石さんは語ります。
「リハーサル自体が、ある意味、指揮のレッスンのようなものでした。マエストロは音楽をこう考えて、こういう音を作りたいから、このような伝え方をしているんだなとか、この場面ではこのパートを取り出して練習するんだなとか。もちろん質問しに行けば皆さん答えてくださいます。特にヤルヴィさんからは、最後まで諦めずに試行錯誤を重ねていく姿勢の大切さを学びました」
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もっとも大切なのは“第三者の耳”としての役割
オーケストラのリハーサルに終始立ち会い、アシストする副指揮者の仕事は、表に見える部分から見えない部分まで、じつに多岐にわたります。
「オーケストラの副指揮者の仕事において、おそらくいちばん必要とされているのは“第三者の耳”としての役割だと思います。オーチャードホールもそうですが、特に天井が高い所では、舞台上で演奏している感覚と実際に客席で聞こえる響きとの間に多少のギャップがあります。そういうとき、リハーサル中にヤルヴィさんは後ろを振り返り、客席側で聞いている私に向かって“このパート聞こえてる?”と尋ねたりします。“代わりに振ってて”と言って、みずから客席に降りてチェックするマエストロもいます。楽員さんからもリハーサル後に“どんな感じで聞こえてた?”と聞かれることもあり、客観的にどう聞こえていたかを答えています。
そのほか、楽譜への変更点を“ここ直しておいてください”とリハーサル前に楽員さんたちに伝えたり、楽員さんたちからの質問をマエストロに伝えたり、マエストロが“オーケストラの配置(楽器の位置)を少し変えたい”と言ったことを事務局のスタッフに伝えたり。楽員、事務局、マエストロのつなぎ役としての仕事が多いです」
こまやかな気遣いとコミュニケーション能力、臨機応変の行動力が必要とされる副指揮者の仕事ですが、平石さんが日ごろ心がけていることは?
「マエストロがどういう音楽をしたいのか、それを理解した上で、バランスを聴いたり、意見を言ったりするようにしています。自分の感覚だけでものを言わない、良い意味で自分を出さないように」
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多岐にわたるオペラの副指揮者の仕事
オーケストラの指揮を主戦場に活動する平石さんですが、2024年のORCHARD PRODUCEシリーズのオペラ《魔笛》(鈴木優人指揮 バッハ・コレギウム・ジャパン)でも副指揮者としてステージを支えました。
「オーケストラとオペラでは、副指揮者の仕事は異なる部分もたくさんあります。歌手も含めた演奏のバランスをチェックするという役割は両者に共通していますが、オペラでは稽古期間が長いことや、立ち稽古という演技を練習していく期間に入ると練習自体を演出家が仕切ることが増えるため、副指揮者が本番の指揮者の代わりに指揮をすることが多くあります。また、特に稽古の初期段階ではコレペティトゥーア(稽古ピアニスト)と副指揮者が分担しながら音楽稽古を仕切ることも珍しくありません。
いっぽうで本番では、合唱団やバンダ(オーケストラから離れた場所で演奏する別働隊)から指揮者が見えない場合は、副指揮者が指揮をします。このときに役立つのがペンライトです。ちなみに《魔笛》のときは舞台袖でチャポチャポという水の効果音を出す仕事もしていて、とても楽しかったです」
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(右)《魔笛》で水の効果音を出す平石さん。今年2月のORCHARD PRODUCEシリーズのオペラ《ドン・ジョヴァンニ》でも副指揮者を務めます。
野球に夢中だった小中学校時代、オーケストラ部でホルンを吹いていた高校時代を経て指揮者を志し、ウィーンで研鑽を積んだ平石さん。これからどんな指揮者になりたいですか? と尋ねるとこんな答えが返ってきました。
「お客さまや演奏者も含めて、同じ空間にいる人たちに、良い時間だったなと思ってもらえるような演奏ができる指揮者になれたらいいなと思います」
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文:原 典子
〈プロフィール〉
指揮を下野⻯也、大河内雅彦、広上淳一、田代俊文の各氏に師事。2017年に渡欧、ウィーンにてJ. ヴィルトナー氏の元で研鑽を積んだ。
2021年9月よりNHK交響楽団にて首席指揮者P. ヤルヴィ氏のアシスタントを、2022年から2024年にかけて同団の指揮研究員を務めた。また、2023年11月にはV. フェドセーエフ氏の代役として同団定期演奏会の前半プログラムを指揮。その他、これまでに東京フィルハーモニー交響楽団、九州交響楽団、広島ウインドオーケストラを指揮。『ポケモン× NHK交響楽団スペシャルオーケストラ2023』の公演でも指揮を務めた。
NHK『LIFE!』への指揮者としての出演、大河ドラマ『べらぼう』における劇中曲の指揮等、放送・録音分野でも活躍する他、東京・春・音楽祭の『ローエングリン』『トリスタンとイゾルデ』、日生劇場『連隊の娘』、Bunkamura『魔笛』などのオペラプロジェクトでアシスタントを務めている。
洗足学園音楽大学・エリザベト音楽大学非常勤講師。
HP https://www.akitohiraishi.com/
X @Akito_HIRAISHI
Instagram @akito_hira
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〈公演情報〉
ORCHARD PRODUCE 2025
高砂熱学 PRESENTS鈴木優人&バッハ・コレギウム・ジャパン×杉本博司 with G.B.Piranesi
モーツァルト:オペラ《ドン・ジョヴァンニ》
(新制作・全2幕・原語上演・日本語字幕付き)
2025/2/20(木)~2/24(月・休)
めぐろパーシモンホール 大ホール
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〈公演情報〉
N響オーチャード定期2024/2025
東横シリーズ 渋谷⇔横浜 <Dance Dance!>
第132回
2025/4/20(日)
Bunkamuraオーチャードホール
「Behind Bunka」では、文化芸術を支える“裏方の役割”にスポットライトを当て、ご紹介しています。ぜひご覧ください。
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