見出し画像

Bunka Baton 和田琢磨(俳優)

“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。今回は、COCOON PRODUCTION 2023『ガラスの動物園』『消えなさいローラ』に出演する和田琢磨さんが登場です。


地元・山形の大先輩との初舞台にメラメラ燃えているところ

ミュージカル、ストレートプレイを問わず、舞台を中心に活躍している和田琢磨さん。『ガラスの動物園』『消えなさいローラ』では、渡辺えりさん、尾上松也さん、吉岡里帆さんと並び立ちます。「みなさんの中に自分が入っていることが非常に光栄です。目指していることが一気に目の前に来てくれました。心の中で踊っています」とにこやかに話します。
演出を務める渡辺さんとは、同じ山形出身。同郷の大先輩との初の舞台に、「身を委ねて、自分の持っているものの中から、渡辺さんが求めるものに対して全力で応えていけたら。ただそれだけです」と話す和田さんですが、実は地元では幾度も“目撃”していたそう。「子どものころ、何度も百貨店でお見掛けしていました。地元のスターですからね。『渡辺えりさんだ!』って(笑)」。
そんな渡辺さんとの初タッグの題材『ガラスの動物園』は、渡辺さんが演劇を志すきっかけにもなった、テネシー・ウィリアムズ氏の出世作。『消えなさいローラ』は、日本の演劇に不条理演劇を確立させた第一人者、別役実氏によるその後日譚で、世界初となる二本立て上演です。「20代の頃だったら萎縮してしまっていたかもしれません。でも自分なりに経験してきたものもあるので、新たな自分のステップアップとして、期待していただいたもの以上のものを出したいなと、メラメラ燃えているところです」と、和田さんは声を弾ませます。

何事も平均以上にできた自分が、芝居を前に初めて壁にぶち当たった

現在37歳の和田さんが、俳優を目指したのは20代の頭。きっかけは、カットモデル時代に掛けられた美容師さんの「俳優を目指してみたら?」というひと言でした。そこから、あるワークショップに参加したものの、「全くできない!」と予期せぬ壁にぶち当たります。それまで何事も本気でやらずとも平均以上にこなしてきた和田さん。それが突然1点を突きつけられ、「こんなに何もできないってことがあるんだ」と衝撃を受け、「なんでできないんだろう」「おもしろいな」とのめり込んでいきました。
やがてオーディションで、ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズンの手塚国光役を掴みます。初期の当たり役になりましたが、順風満帆な船出だったわけではないと口にします。「大人気の公演だと言われていたのに、2ndシーズンの始まりは席が半分しか埋まらなかったんです。あまりの現実に、『全然ダメだ…』と、僕らキャストは朝練したり、試行錯誤していきました。そのうち、スタッフの方やダンスの先生も加わってくださり、そうしたものがどんどん伝染していった最終地点がお客様で、2年間やった最後の公演では、当日券に1000人もの方が並んでくださったんです」と述懐。
そして「自分が一生懸命やることで、たくさんの方が喜んでくださった。支えになりましたし、いい仕事だなと実感するようになりました。いまも自信を持ってとても素晴らしい作品だと胸を張れますし、あの経験から僕自身が培ったものは、今でも生きていると思います」と噛みしめるように語りました。

舞台演劇のふり幅の広さに衝撃と感激。一方で将来に迷った時期も

いわゆる2.5次元ミュージカルの世界にどっぷり漬かったすぐそのあとには、「大人計画」の細川徹さん演出コメディ『スペーストラベラーズ side;Winter』で本多劇場に立ち、「これまでいかに漫画に忠実にやるかという作品をやってきたのに、まったく真逆でした」と、新たなる衝撃を受けます。
「ワンシチュエーションコメディだったのですが、細川さんが『和田さん、なにか、ちょっとここ面白いこと考えてよ』おっしゃるんです(苦笑)。そもそも、毎日の稽古のスタートが、30分くらい、みんなでの雑談なんです。ある日、ひとりのキャストさんが、来るとき耳にした会話を話したら、細川さんが『それ面白いですね。ちょっと10分ください』と言って、冒頭のシーンが、その会話を組み込んだ形になったんです。リアリティがあるのはもちろん、雑談から作品が生まれていく様子を目の当たりにして、『すげー!』とビックリしました」と目を輝かせます。さらに「『テニスの王子様』とのふり幅にとてつもない面白さを感じて。両方面白いからこそ、そのふり幅のすごさに惹かれました」とますます舞台にはまっていったのです。
順調な滑り出しに映りますが、将来に迷う時期がなかったわけではありません。2013年、舞台『遠い夏のゴッホ』に入る際の食事会でのこと。「当時、父が地元で会社をやっていました。将来の話になって、『役者と父の会社を継ぐかで、まだ役者1本に決められていない』と独り言に近い感じで、ポロっと口にしたんです。そのときに、田口トモロヲさんが、『そんなんだったら役者なんてやめれば。しがみついてでもやっている人だっているんだから、そんなふわふわしてるんだったら、やめればいいよ』とおっしゃったんです。たぶん、ご本人は覚えてらっしゃらないと思うんですけど、こんなぬるい気持ちはダメだ!と山形に帰らないことを決心した瞬間でした」と教えてくれました。

COCOON PRODUCTIONへの出演は、別のゾーンへのスタート

30代に入ってからは、意識してやりたいことを言葉として口に出すようにしているそう。「ある程度、年齢も仕事も重ねてきて、こういう方と、こういうお仕事をしてみたいと口に出すのは悪いことじゃないなと。自分に対しての叱咤激励にもなりますし。そこは30代に入ってから変わったかもしれません」
そして今回の出演に「別のゾーンのスタートです」と胸を張ります。
「渋谷でアルバイトをしていたときに、自転車でBunkamuraの前を通りながら、松尾スズキさんとか、阿部サダヲさん、多部未華子さんといった方々の名前を拝見しながら、『どうしたら自分がここに出られるんだろう』と思って通り過ぎていました。そんな僕が今、COCOON PRODUCTIONに立つ。ここからがスタートです。はじめにもお話しましたが、『やってやるぞ!』とメラメラ、そしてワクワクしています」。
何事も懸命に向かわずとも平均以上にこなせてきたという和田さんが、芝居に出会うことで知った壁。以降、幾度もいい意味での衝撃を受けながら、しなやかに、自身の幹を太く強くしているのは、そのキャリアから伝わります。柔らかな笑顔のその奥で、芝居への熱い想いを燃やしている姿が、とてもステキです。

文:望月ふみ

〈プロフィール〉

1986年1月4日生まれ。山形県出身。2011年にミュージカル『テニスの王子様』で6代目手塚国光役を好演し、以降2017年『刀剣乱舞』など話題作に多数出演し、人気を集める。近年の主な出演作として、【舞台】『逃亡』『仁義なき幕末』『鋼の錬金術師』(23)、『薔薇王の葬列』(22)、『アンダースタディ』『首切り王子と愚かな女』(21)、『PSYCHO-PASS』シリーズ(20)、【映画】『仁義なき幕末~龍馬死闘編~』(23)、『腐男子バーテンダーの嗜み』(22)『劇場版ほんとうにあった怖い話2020 呪われた家』(21)、【ドラマ】『天才てれびくん』ドラマパート(23・NHK)『あいつが上手で下手が僕で シーズン2』(23・AX)、『コールドゲーム』(21・CX)など。

X @wadatakuma_

〈公演情報〉
COCOON PRODUCTION 2023
『ガラスの動物園』『消えなさいローラ』

公演日:2023/11/4(土)~11/21(火)
会場:紀伊國屋ホール(東京・新宿)

「Bunka Baton」では、“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語っていただきます。ぜひご覧ください。