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Bunkamuraも開設!文化芸術×メタバースの可能性と未来とは

現実に近い特徴を持つ3次元の仮想空間での行動やコミュニケーションを可能とし、2030年には世界市場が79兆円規模まで拡大すると予測されている「メタバース」。その新しい可能性に注目した企業や団体が次々とメタバース事業に参入する中、Bunkamuraも2024年から文化芸術をバーチャル空間で楽しめるメタバースを開設します。従来のリアル空間での文化芸術体験と何が異なるのか? Bunkamuraと三社でメタバースを共同開発したNTT ArtTechnologyと大日本印刷(DNP)への取材を基に解説します。


メタバースを知らない人も
実は体験している
「文化芸術×ICT」

メタバースでは、オンラインゲーム、イベント、ライブ、ショッピングなど体験可能なサービスが年々増えつつありますが、まだまだ普及途上。そのため、まだメタバースを利用したことがない方も少なくないでしょうし、メタバースでの文化芸術体験と言われても具体的なイメージが湧かないかもしれません。しかし、メタバースに活用されているICT(情報通信技術)はすでにさまざまな形で文化芸術との融合を果たし、すでに多くの方たちが実際に体験しているのです。
例えばNTT ArtTechnologyでは、地域の文化芸術をデジタル化し様々な場所でサテライトミュージアムとして展開することで、空間・距離・時間にとらわれずさまざまな人々が身近な環境で文化芸術を楽しめる「分散型デジタルミュージアム構想」を推進しています。その中で、2021年に晩年の葛飾北斎が描いた岩松院本堂天井絵「鳳凰図」をNTT ArtTechnologyと株式会社アルステクネが連携し、アルステクネの特許技術「三次元質感画像処理技術(DTIP)」を活用して高精細デジタル化しました。2022年には実物大の高精細マスターレプリカ展示や展示空間の壁・天井に投影される映像での岩松院本堂を再現した展覧会「Digital×北斎【特別展】」を開催しました。あらゆる場所で文化芸術の魅力を発信することによって、地域活性化にもつなげています。
音楽コンサートや舞台公演など無形の文化芸術においても、会場に足を運べなくてもライブビューイングや配信による鑑賞が可能となっています。さらには2022・2023年にNTT ArtTechnologyとBunkamuraがオーチャードホールで開催したコンサート『未来の音楽会』では、NTTグループが進める次世代ネットワーク構想「IOWN」の要素技術を活用し、東京や大阪など離れた会場にいる奏者たちが音のズレを感じさせることなく一つのハーモニーを奏でる“リアルタイム・リモート演奏”を実現。鑑賞者にとってもアーティストにとっても、文化芸術体験の可能性はICTによって年々アップデートされているのです。

Bunkamura × NTT Art Technology『 距離をこえて響きあう 未来の音楽会Ⅱ』
2023年2月10日(金) オーチャードホール
従来のリモートコンサートでは通信や音声・映像の処理により遅延が発生していましたが、『未来の音楽会』では最新の低遅延通信技術を活用することによって通信の遅延を最小限に短縮。東京・大阪という約400kmも離れた会場にいるアーティストたちが違和感なく一つのハーモニーを奏でました。

一方、DNPでは早くから“保存と次世代への継承”を目的に文化財や美術作品のデジタルアーカイブ化に取り組み、さらにICTを活用した公開サービスを提供し、多くの人々が文化芸術を学び、体感いただけるような文化事業を進めてきました。フランス国立図書館が保有する55点の地球儀・天球儀、歴史的建造物の天井画などの高精細なデジタル化と鑑賞システムの開発や、世界遺産 仁和寺 国宝「金堂」の高精細8K VRコンテンツ制作など、高精度の3Dデジタル化と鑑賞システムによって、人それぞれの興味に寄り添った文化鑑賞を可能にする取り組みを行っています。

DNPミュージアムラボ
DNPはフランス国立図書館との協働プロジェクト「DNP ミュージアムラボ」で、ICTを活用したさまざまな体験コンテンツを公開。「みどころウォーク」では、VRゴーグルを装着することで同館のマザラン・ギャラリーのVR空間内に入り込み、実際に訪れたような体験を味わえます。

リアルな文化芸術施設が
メタバースに取り組む意義

こうしたICTを活用したメタバース事業は、すでに文化芸術の分野でも始まっています。本物の展示会場のようにデザインされた仮想空間内をアバターで巡りながら、デジタルデータ化された絵画などの文化芸術作品を鑑賞できる「メタバース美術館」がその一例。24時間いつでもどこからでも来場でき、さらにバーチャルならではの自由かつ独創的な空間構成や展示演出によって、リアルでは味わえない鑑賞体験を楽しめることが醍醐味です。
でも、バーチャル空間で文化芸術を体験できるなら、リアルの展示空間に足を運ぶ必要がなくなるのでは? だったらなぜBunkamuraがわざわざメタバースを開設するのか? そんな疑問を抱く人もいることでしょう。しかし、前述のように「メタバースでしかできない、リアルにはない体験」を活用すれば、メタバースは文化芸術の楽しみ方の可能性をさらに広げることができるのです。その例として、2024年のメタバース本格開設に先駆けて取り組んだ企画を紹介しましょう。
2023年7月からBunkamuraがヒカリエホールで開催した写真展「ソール・ライターの原点 ニューヨークの色」に合わせ、NTT ArtTechnologyは2024年3月31日までの期間限定でバーチャルミュージアムを公開しています。その内容は、ソール・ライターが拠点にしていたニューヨーク・イーストヴィレッジの街並みの再現や、『あなたが見つけた「ソール・ライターの色」フォトコンテスト』への応募写真をメタバースギャラリーに展示するという、ソール・ライター展と合わせて楽しむことができるもの。さらに、通常の展覧会では知らないお客様同士が会話することはなかなかありませんが、バーチャルミュージアムではチャットで感想を共有するといったコミュニケーションや交流も可能です。つまり、写真展と合わせてバーチャル上で新たな楽しみ方を体験できることになります。
こうしたバーチャルミュージアムにおいてBunkamuraが目指したのは、リアルな場で行う展覧会をメタバースで代用するのではなく、バーチャル空間だからこそ実現できるユニークな体験を提供することによって、より幅広い方々が展覧会に興味を抱いて楽しめるようにする相互活用。このように、実在する文化芸術施設がリアルとバーチャル各々の強みを活かして相乗効果を生み出すサイクルが確立できれば、展覧会来場者以外のお客様が増え、文化芸術の発展につながる新たなシステムとして全国に普及していくのではないでしょうか。

写真展『ソール・ライターの原点 ニューヨークの色』の関連企画としてバーチャルミュージアムを開催。ソール・ライターが拠点にしていたニューヨーク・イーストヴィレッジの街並みを実際に歩いているような感覚や、メタバースギャラリーに展示されたコンテスト応募写真の鑑賞を楽しむことができます。

Bunkamuraメタバースが
提供する
新たな文化芸術体験とは

2024年に開館35周年を迎えるBunkamuraでは、これまでBunkamuraに足を運んでくださった方々はもちろん、普段あまり劇場や展覧会に足を運ばない方でも興味を抱いて気軽にアクセスできるよう、文化芸術をバーチャル空間で楽しむという新しい鑑賞体験をお届けするメタバースを開設。メタバース空間への入口となる「エントランス」、関連動画を視聴できる「シアター」、来場者との交流が楽しめる「コミュニティスペース」、展示企画を鑑賞できる「ギャラリー」の4つの機能を持った複合的なバーチャル空間で、来場者は各空間を自由に回遊し楽しむことができます。ただ展示や公演を観て帰るのではなく、チャット機能を使用しユーザー同士でコミュニケーションがとれることもメタバースならではの鑑賞方法です。
Bunkamuraメタバースでの展示企画第1弾として、2024年2月15日から3月31日まで「Bunkamuraオペラの軌跡~これまで、そしてこれから~」を開催。これは2月にBunkamura35周年記念特別企画としてめぐろパーシモンホールでモーツァルトの名作オペラ『魔笛』を上演するのに合わせたもので、1989年Bunkamuraオーチャードホールのこけら落とし公演として話題になった、門外不出のバイロイト音楽祭の初来日公演ポスターをはじめ、これまで開催したオペラ公演のポスター(紙の状態で保管していた当時のポスターをデジタル化したもの)を中心に、貴重な写真や映像の展示を通じてBunkamuraとオペラの歩みを振り返る内容となっています。
展示空間は、通常の展覧会会場のように章ごとに作品を楽しめるギャラリー空間と、ポスターや年表を俯瞰して見ることができるキューブ状の空間の2種類。ギャラリーでは1989年「魔笛(まほうのふえ)」、1999年「トゥーランドット」のダイジェストや、1996年「マダム・バタフライ」のメイキングの動画も公開。リアルな空間としてデザインされた展示室の中をアバターで巡りながら直感的かつ多角的に鑑賞し、楽しみながら知識と関心を掘り下げていけるようになっています。

Bunkamuraメタバースの展示企画第1弾「Bunkamuraオペラの軌跡~これまで、そしてこれから~」。通常の展覧会会場のように平面的にフロアを巡るほかにも、空間の縦軸に割り当てられた年代ごとに俯瞰するなど、リアル空間では味わえない鑑賞体験を楽しめるようになっています。

今後もBunkamuraメタバースでは、オペラ以外にもさまざまな文化芸術のジャンルにフォーカスした企画の開催を検討します。バーチャル空間だからこそ可能な、胸躍る文化芸術体験にご期待ください!

文:上村真徹


[取材協力(左から)]
大日本印刷株式会社
マーケティング本部 文化事業ユニット アーカイブ事業開発部 部長
木藤聖直さん

大日本印刷株式会社
コンテンツコミュニケーション本部 XRコミュニケーション企画・開発部 部長
矢野孝さん

株式会社NTT ArtTechnology
デジタルアート推進事業部 担当課長
黒川圭二さん

Bunkamura
営業・開発部 企画営業室 渡邉歌保
       担当部長 長谷川修


Bunkamuraメタバース
公開期間:2024/2/15(木)~3/31(日)
会場:Bunkamuraメタバース Gallery 

「Bunka Essay」では、文化・芸術についてのちょっとした疑問や気になることを取り上げています。他の記事もよろしければお読みください。