特別ワークショップレポート 第二弾 鵜山仁先生
7月11日と18日に開催された〈特別ワークショップ〉には、鵜山仁先生(文学座)が登場。聞くところによるとこの人選は、松尾スズキ主任たっての希望だったとか。井上ひさしの傑作『紙屋町さくらホテル』を教材に「戯曲とキャッチボール」と題し、日本演劇界を代表する演出家から直接学ぶ貴重な時間となりました。
11日は着席での読み合わせ。事前に役を割り振られた生徒たちは3グループに分かれ、ひと場面を読んでいきます。全員の声を聞き終わった講師は、フレーズごとに台詞の音を彩り豊かに変えていくこと、相手の台詞から何かを“もらって”言葉を発することなど、いくつかの課題を提示。すると明らかに1周目とは違う、イキイキとした対話になっていくから不思議です。長年あらゆる舞台を手がけてきた演出家だけに、講義の合間、合間には、井上ひさしやベテラン俳優たちとの思い出など、お宝エピソードも盛りだくさん。あっという間の3時間となりました。
1週間後の18日。講義が始まるやいなや「せっかくここに舞台があるので……」と、ランダムに選ばれた生徒が一人ずつシアターコクーンの広い舞台に立ち、本番のつもりで台詞を喋ることに。広い空間で立体的に声を発する難しさを経験した後は、台本片手にみっちりと立ち稽古。観ていて興味深かったのは、鵜山先生が生徒に「疑問形で問いかける」場面の多さ。断定でないことで、俳優は自然と能動的になります。「たまには誤読も」という言葉も印象的で(フランスの演出家パトリス・シェローの引用とか)、手っ取り早く見つけた“正解”で思考を止めない、動的なアプローチの示唆となりました。
今回の教材となった『紙屋町さくらホテル』の舞台は原爆投下前の広島、戦地を慰問する移動演劇隊「さくら隊」を描いた物語です。戦時下でも芝居を続けた人たちの姿には、若い俳優たちの心に響くものがあったはず。同作には、新劇の天才と言われながらも、巡演先の広島で被爆した丸山定夫ら実在した大先輩も登場します。この丸山をはじめ、偉大な俳優たちを輩出した築地小劇場の開場100周年という記念すべき年に、日本の演劇史の1ページに触れる意義ある時間ともなりました。
2日間の講義を終えた感想を鵜山先生に聞くと「いろいろな講師の方と接しているからなのか、皆さんとても真面目で明るく開放的。リアクションも早い」とのお答え。「本番のための稽古にはない、断片の中に発見と刺激がある、僕自身ありがたい機会となりました。俳優が自分一人で変わることは難しいんです。相手役ないしは観客、小道具、あるいは台詞……その他目に見えないものとも交流し、キャッチボールすることが大事。舞台にはライブ表現だからこその変えがたい感動があります。一人ひとりが表現を掘り下げて、いい鉱石を発見してください」と締めくくりました。
あらゆるものと対話し「想定外の方向へ変化する」――他者と出会う喜びは、舞台の醍醐味かもしれません。
文:川添史子
次回のCAS通信もお楽しみに!
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