【読んでおいしいTHE WINE】第1回:フランス芸術を育んだカフェとワイン
ワインのコンシェルジュ THE WINE by TOKYU DEPARTMENT STOREと
Bunkamuraドゥマゴ文学賞がフランス各地の“おいしい”ワインをご案内します。
ワインを楽しむのに詳しい知識は必要はありません。どんなシーンでどんな人と飲むかが大切。けれど、ほんの少しだけフランスワインのことを知っていると、日々の生活がグンと豊かになり、日常に彩りと喜びが生まれます。伝統的なワイン生産国であるフランスでは北部を除くほぼ全域でワインが造られ、産地ごとにブドウ品種や雰囲気に特色が表れています。考古学上でワイン発祥とされている国は東欧にあるのですが、フランスはそのお国柄ゆえ、ブドウを発酵させたこの飲み物に愉悦を見出し、生きる喜びを体感するためのエッセンスとして発展させてきたといえるでしょう。
美食の国フランスにはレストランもたくさんありますが、皆がテーブルクロスの敷かれた店で食事をしているわけではありません。パリでも地方の街にも、必ずあるのがオープンテラスのカフェ。フランスにおけるカフェとは、お茶だけでなくワインやブランデーなどのお酒が用意され、コックコートを着たシェフがおつまみからコース料理までを提供する食文化の原点のような場所。昼間はシャンパーニュ、アペリティフでロゼを飲み、食事しながら赤を開けて締めに一杯のブランデー、と日に何度も訪れる、今でいうサードプレイスなのです。そうしたカフェの筆頭に挙げられるのがパリ左岸、サン=ジェルマン=デ=プレ教会の前に位置するドゥマゴ。創業は1884年に遡り、2024年に140年を迎える老舗のこのカフェは当時から文豪や知識人が集い、ワイングラスを片手に創作活動を行ったり、芸術家同士がボトルを何本も開けながら議論をしたりと、フランス文化の表舞台となった場所なのです。アールデコ調の店内でマラルメとランボー、ヴェルレーヌが詩を論じ、サルトルやボーヴォワールが哲学を語り、アンドレ・ブルトンが提唱したシュールレアリスムもここから生まれたもの。また、先進的な才能を評価するために1933年に創設されたドゥマゴ賞は世界でも歴史ある文学賞のひとつで、日本でもBunkamuraドゥマゴ文学賞としてその真髄が受け継がれています。ワインはフランスの人々の生活に深く根差し、文化と芸術の発展を裏で支えてきた立役者でもあるのです。
では現代のドゥマゴのワインリストはどのようなものなのでしょうか。並んでいるのはもちろんフランスワインのみ。ボルドー、ブルゴーニュ、ローヌやロワール、アルザス、シャンパーニュという具合に主要な生産地域が網羅されていて、まるでフランスのワイン地図のよう。ワイン名にはいずれもその土地原産のブドウを適切な方法で栽培し、地域ごとの規定を守って醸造された証しである「原産地統制呼称(アペラシオン)」が記載されています。フランスワインはこのアペラシオンにより品質が保証され、どこでどのようなブドウ品種から造られたワインなのかがわかるので、これさえ知っていれば誰でもワインを選ぶことができるのです。アペリティフ(食前酒)やコニャックやオー・ド・ヴィといった食後酒が用意されているのも、食文化の豊かなフランスの歴史あるカフェならでは。
■今回のおいしいフランスワイン〔ドゥマゴのワインリストから〕
憧れのマルゴーを肩ひじ張らずに楽しめる!
銘醸地ボルドーの女王と称されるシャトー・マルゴーと同格の畑のブドウから造られるワイン。違うのはいま開けてすぐに絹のようになめらかな口当たりと豊かな果実感を味わえます。ドゥマゴ本店ならスペシャリテ「シャロレ牛のタルタル」に合わせてみたいもの。シャトー・マルゴーの品格を肩ひじ張らずに楽しめる、まさに正統派のボルドー。王道外れなし、フランスワインの扉を開くのにぴったりなワインです。大切な時間を過ごすときのお供にいかがでしょうか?
マルゴー・デュ・シャトー・マルゴー 2017
産地:ボルドー/ブドウ品種: カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロなど ¥13,200(※記載価格は2024年9月時のものです。)
※本連載はBunkamuraドゥマゴ文学賞が発行する小冊子「LES DEUX MAGOTS PARIS Littéraire」にて掲載しています。
取材・文:谷宏美
「お酒は趣味であり、ファッションである」をコンセプトに世界中から厳選したワインをとりそろえます。ジャンルにとらわれず、幅広いワインラバーのご要望にお応えします。
Bunkamuraドゥマゴ文学賞とは
パリのドゥマゴ賞のユニークな精神を受け継ぎ、Bunkamura創立1周年の1990年9月3日に創設した「Bunkamuraドゥマゴ文学賞」。受賞作は、毎年かわる「ひとりの選考委員」によって選ばれます。