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Bunka Baton 佐山裕樹(チェリスト)

“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。今回は、“若手チェリストの登竜門”ビバホールチェロコンクールで第1位に輝き、ソロ演奏、室内楽、オーケストラとの共演など意欲的に活動を行っているチェリストの佐山裕樹さんです。


チェロの恩師から教わった「自分の心を歌う」大切さ

佐山さんがチェロを習い始めたのは、ピアニストのお母さんが「子どもに弦楽器を弾かせたい」と思っていたことがきっかけ。幼い頃は練習が嫌いだったそうですが、小学3年生から地元の栃木をはじめ各地でコンクールに挑戦するうちに「コンクールで結果を出すことで楽しさを感じていくようになりました」とチェロに対する姿勢に変化が発生。やがて演奏家への道を志し、本格的に音楽を学ぶようになったのです。
そんな佐山さんにとっての演奏の道しるべを作ったのは、中学時代から師事したチェロ奏者の倉田澄子さんでした。当時の指導について「弓を持つ右手の使い方など基礎をしっかり教えてくださる一方、『歌い方は自分の思うように弾きなさい』とおっしゃっていました。その影響から、倉田門下生は良い意味で全員が違う演奏をしています」と振り返ってくれた佐山さん。この恩師の言葉を大切に胸に秘め、自らの内側にある思いを演奏で表現するよう意識し、今も「聴いてくださる皆さんの心に残る演奏をしたい」と心がけています。

聴く人の心に残る演奏を会場の規模を問わず大切に

小学生から意欲的にコンクールにしてきた佐山さんですが、苦労したのが暗譜。「もともと楽譜を覚えることが苦手で、以前出場したコンクールで暗譜が飛んでしまったことがあります。それ以降、本番の舞台で『また暗譜が飛んでしまうんじゃないか』と心配するようになりました」と苦手意識を告白。
そこで佐山さんは対策を考え、「楽譜の音名をすべてドレミで覚えてから、まっさらな五線紙に楽譜通りに書き込んでいく」ことを実行。ドヴォルザークのチェロ協奏曲のような大曲だと、書き込みに数時間も要するのだとか! そうした努力の甲斐もあって、その後挑戦した全日本学生音楽コンクールや“若手チェリストの登竜門”ビバホールチェロコンクールで第1位を受賞。周囲から「おめでとう」と祝福されることで、「これからも音楽を続けていいのかな」と自信に変えていったのです。
室内楽だけでなくオーケストラとの共演にも力を入れている佐山さん。それぞれの違いや魅力について尋ねたところ、「背後に数十人の演奏家がいる中でソリストとして音を奏でるコンチェルトは、弾き終わった後に大きな達成感を得ることができます。逆に、ピアニストとの共同作業でもあるチェロソナタは、演奏の掛け合いで達成感を得ることができます。どちらも好きです」と教えてくれました。もちろん、小規模なホールで室内楽を奏でる時も、大きなホールでオーケストラと共演する時も、「会場で聴く人全員の心に届く音を奏でたい」という佐山さんの姿勢に変わりはありません。ただし、演奏に込める気持ちは会場の規模を問わず同じではあるものの、「大きな会場だと、最後列に座っている方まで音が届くよう、よりエネルギーを使っています」と演奏スタイルの調整は臨機応変に行っているそうです。

チャイコフスキーのバレエ音楽が好きで、何度か観劇したこともあるという佐山さん。「『白鳥の湖』でチェロ独奏の美しいパートがあるので、いつか演奏してみたいです」とのこと。

日本を代表するチェリストとの音楽の対話を通じて成長したい

2023年9月1日から3日まで浜離宮朝日ホールで開催された『室内楽フェスティバル AGIO(アージョ)』の2日目に、宮田大さん、辻本玲さん、伊藤悠貴さんとチェロカルテットを結成し出演された佐山さん。公演に向けての思いを尋ねると、真っ先に「今回共演する皆さんは、チェリストとしても人間としても尊敬している方ばかり。まさか一緒に共演させていただけるとは思っていなかったので、嬉しい気持ちでいっぱいです」と喜びを告白。その上で、「カルテットの中では自分が一番年下ですが、音楽を通じて対等に対話し、そのコミュニケーションをお客さんに楽しんでいただきたいです」と意気込みを語ってくれました。また、「皆さんの演奏は音色やパッションが素晴らしいので、リハーサルや本番を重ねていく中で自分もその領域に少しでも近づきたいです」と共演を通じて得られるものに目を向けています。
佐山さんの今後の目標は「在京のプロオーケストラとコンチェルトを演奏してみたいです。また、ソロ活動や室内楽だけでなく、オーケストラの奏者としても活動したいですね」と実に意欲的。さらにその先を展望して挙げたのは、幼い頃からの憧れである世界的チェリスト、ヨーヨー・マの存在です。「2017年の来日公演で聴いたラフマニノフのチェロソナタは、涙が出るくらい素晴らしい演奏でした。また2021年の沖縄公演ではバッハの無伴奏チェロ組曲を演奏し、音楽にかける思いがすごく伝わってきました。僕はまだ20代ですが、年齢を重ねながらこんな音楽家になっていきたいです」と熱く語る佐山さん。今後の飛躍に期待大です!

文:上村真徹

〈プロフィール〉

1996年生まれ。4歳からチェロを始め、2017年に第70回全日本学生音楽コンクールでチェロ部門大学の部東京大会および全国大会第1位、2018年に第13回ビバホールチェロコンクール第1位に輝く。桐朋学園大学音楽学部チェロ科を首席で卒業し、その後同大学ソリスト・ディプロマコース修了。これまで栃木県交響楽団、真岡市民交響楽団、YAO管弦楽団、宇都宮シンフォニーオーケストラと共演し、NHK交響楽団や新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏会にゲスト首席として出演。実力派男性チェリストを集めた「高嶋ちさ子 with Super Cellists」のメンバーとしても活動中。

〈公演情報〉※終了しました
Bunkamuraオーチャードホール×浜離宮朝日ホール 共同企画
ORCHARD PRODUCE 2023
宮田大&横溝耕一が贈る室内楽フェスティバル AGIO
公演日:2023/9/1(金)~3(日)
会場:浜離宮朝日ホール

「Bunka Baton」では、“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語っていただきます。ぜひご覧ください。