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新たな出会いや挑戦が自分の世界を広げてくれる/伊原六花さんインタビュー

“文化の継承者” として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。学生時代は大阪府立登美丘高等学校ダンス部でキャプテンを務め、現在は映画やドラマ、舞台など幅広いジャンルで活躍している伊原六花さんにお話をうかがいました。


創作や表現に関わる
厳しさと喜びを教えてくれた
ダンス部の活動

幅広い作品に出演し、凛とした佇まいとまぶしいくらいの笑顔で印象を残す伊原六花さん。10月の赤堀雅秋書き下ろし新作公演『台風23号』にも出演が決定しており、さらなる活躍が期待される若き才能です。人前で表現することの原点は、4歳で習い始めたバレエとのこと。

「2歳ずつ離れた姉と妹がいる三姉妹で、小さい頃から“姉ができることは私にもできるはず!”という負けず嫌いを発揮し(笑)、バレエもその流れで始めました。他にもヒップホップなど姉妹でダンスを習ったのですが、続いたのは私だけ。体を動かすことの楽しさはもちろん、発表会などで家族や近しい人に“凄かったよ!”と褒めてもらえるのがとても嬉しかったんです。さらには衣裳やメイクなど、舞台に立つ人だけが経験できるキラキラな世界にも強く惹きつけられ、それらには仕事になった今も、変わらず魅了され続けています」

幼い頃に緊張や人前に立つコワさはなかったのかを問うと、「緊張したことは一度もないかもしれません。むしろ映像の仕事で、カメラを間近に向けられるような時のほうが緊張します(笑)。映像は撮影順と物語の流れが逆転したり、こま切れだったりするのでドキドキする機会も多いんです。舞台のように、一度始まったら最後まで走り切れるほうが没頭できて緊張する暇がないのかもしれません」という歯切れの良い答えが返ってきました。

以降も、ジュニア中心のミュージカル劇団、沖縄発祥の舞踊をもとにした「現在版組踊」などの活動に参加。2015年に進学した大阪府立登美丘高等学校ではダンス部に所属してキャプテンも務め、100余名の部員をとりまとめながら「日本高校ダンス部選手権」で「バブリーダンス」を発表。大会だけでなく広く話題になり、在学中からメディアへの出演も果たします。

「それまでの習い事とは違い、いろいろな制約、点数や勝敗があるという点でダンス部での活動からは創作の別の側面も学ぶことができました。群舞でしかできない表現や、そこから生まれる大きなエネルギーを知ったことも大きいです。何より、卒業生で部のコーチをしてくださっていたakaneさんとの出会いが、私にとっては特別なこと。ダンスの技術やセンスはもちろんピカイチでしたが、何よりとても自由な方で、どんなに有名で権威のある相手でも、ご自身の表現や考えと相いれない時は正面からぶつかって意見する。マスメディアに取り上げられる時もakaneさんが同席させてくださり、ショウビジネスの現場、一つの作品が出来上がるまでにどれだけの人が働き、どんな流れになっているのかも見せていただきました。考えてみると当時のコーチは、今の私くらいの年齢なんです。アツく私たちの背中を押すだけでなく、時には弱気になって“もう優勝できないかも”などと心情を吐露する姿までさらけ出しながら、プロとして表現に臨むためどんな心がけが必要かのお手本になって下さった。今の私がいるのは、akaneさんのお陰だと思っています」

俳優としての自分の役は
誰より深掘りしたと
胸を張りたい

2018年に正式デビュー。ドラマやバラエティなどテレビへの出演に始まり、舞台、映画と伊原さんは順調に活躍の場を広げていきます。

「どんなメディア、どんな作品でも一番に感じるのは“楽しさ”。でも中には、その時の自分の限界を突きつけられる瞬間もありました。2021年に参加した舞台『友達』(安部公房 作、加藤拓也 演出)はそういう作品のひとつで、戯曲の難解さに始まり、私から見れば演劇の神様のような大先輩や手練れの方ばかりのカンパニーで、しかも演出は話題作を次々に発表していらっしゃる加藤さん。『あの戯曲は面白かった』、『今度は演出の○○さんとご一緒したいよね』などという、稽古場で皆さんが交わすおしゃべりにさえついていけなかったんです。作品ごとに精一杯努力したと思っていても、やっていたのは目の前のことだけ。自分の無知さを反省し、それからはただ“好き”だけで作品を観るのではなく、作家や演出家、作品の背景なども時には調べるなど、意識的に学ぶ機会を増やすようになりました。演劇にも野外のテント公演から歴史ある新劇、古典、小劇場までさまざまな種類があり、それぞれに異なる層のお客様がいらっしゃる。知らずにいることは勿体ないだけで、知れば知るほど俳優としての表現や仕事が面白くなる。それに新たな出会いや挑戦が増えるほど、自分の世界が広がっていくのが感じられて嬉しくて仕方ないんです。今の時点で、“やりたいことを全部やるには時間がないかも”と勝手に焦っています(笑)」

そんな伊原さんが今、自身の仕事に対して“譲れないこだわり”を訊くと、「自分の演じる役について、それがどんなメジャーな作品だとしても“今、一番この役と作品についてたくさん考えたのは私だゾ!”と胸を張れるくらい時間をかけること」との答えが。

「作品が決まり、台本をいただくと常にそばに置いて繰り返し読み、一人でも台詞を口にして練習し続けます。作家、演出家、研究者や批評家など作品の専門家はたくさんいらっしゃいますが、“演じる立場で役を一番深掘りしているのは私、負けないゾ!”と言えるくらい作品を自分の心身に沁み込ませ、自分なりの考えや解釈をちゃんと持っていないと不安になってしまうんです。自分が納得できるまで作品と役に浸りきることが、俳優としてしっかり作品の中に存在するための、私にとっての最初の一手なのかも知れません」

毎回、そこまで深く役に入り込んでしまうと、抜けるまで時間がかかるのではという問いには、「“次”があれば大丈夫です。新たな作品にもしっかり浸るための時間も必要なので、そこはすっきりサッパリです(笑)」との言葉と笑顔が返って来ました。
出会いを力に変え、身に着けた表現を新たな作品の土台とし、さらなる高みをめざす。俳優という名の永久機関=伊原六花さんの活躍は、これからも目が離せません。

文:尾上そら

〈プロフィール〉

幼少期よりバレエやコーラス、ダンスに親しむ。2017年に当時キャプテンを務めていた大阪府立登美丘高校ダンス部が日本高校ダンス部選手権で披露した「バブリーダンス」が話題となり、2018年に俳優デビュー。近年の主な出演作に、【舞台】『ダブリンの鐘つきカビ人間』(24)、『夜の女たち』(22)、『海王星』『友達』(21)、【ドラマ】『肝臓を奪われた妻』(24・NTV)、『ブギウギ』(23-24・NHK)、『マイ・セカンド・アオハル』(23・TBS)、【映画】『リゾートバイト』『地獄の花園』(21)などがある。

〈公演情報〉
Bunkamura Production 2024
台風23号

2024/10/5(土)~10/27(日)
THEATER MILANO-Za (東急歌舞伎町タワー6階)

「Bunka Baton」では、“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語っていただきます。ぜひご覧ください。