感動が生まれる場所~劇場紹介 Bunkamuraオーチャードホール
Bunkamuraの主催企画を開催する劇場やホールをご紹介するレポートがスタート!「一度は生で音楽や演劇を鑑賞してみたい」と思っている方が気軽に足を運ぶきっかけになるよう、またすでに何度も足を運んでいる方も「このホールはこうなっていたのか!」と新たな発見を得られるよう、様々な角度から劇場・ホールの特徴に迫ります。 今回は、渋谷の賑やかな繁華街から少し離れて落ち着いた雰囲気の街角に建つBunkamura内の施設で、1989年のオープン時から現在まで多くの名演を重ねてきたオーチャードホールに潜入しました。
コンサートホールも楽器!
優れた音響の秘密はその構造にあり
Bunkamuraオーチャードホールは1989年に開業した総客席数2150席の大規模な音楽ホール。世界三大ホールに数えられるムジークフェラインザール(ウィーン)、コンセルトヘボウ(アムステルダム)、シンフォニーホール(ボストン)と同じくシューボックス型ホールで、その美しく優雅な音響の良さはお客様のみならずアーティストからも高く評価されています。シューボックス型とは文字通り“靴の箱”のような直方体の構造を意味し、天井が高く平らで、バルコニーの付いた側壁も垂直に高く平らに立っているのが特徴的です。Bunkamuraオーチャードホールもこうした構造によって舞台上から発する音が何度も繰り返し反射され、どこの席で聴いても均一化された豊かな音響が届くのです(なお、コンサートホールにおいて豊かな響きに必要とされる残響時間は、約2秒になるよう設計されています)。
またBunkamuraオーチャードホールは、オーケストラやリサイタルによるクラシックコンサートをはじめ、バレエ、オペラ、さらにジャズやポップスまで幅広いジャンルの公演を行うことを前提に設計され、様々な工夫が施されているのも特徴的。そのために重要な役割を果たしているのが、舞台上にある白色の可動式音響シェルターです。三分割された音響シェルターを前後に電動で移動させることで、室内楽なら小さく、フルオーケストラなら大きくするなど、演奏人数の規模や演目形態に適したステージを1つの空間で自在に作り分けることができるのです。さらに1階前方の客席も可動式になっていて、例えば1~7列目までの席を地下に下げることでオーケストラピットに変身します。
ちなみにお客様の目に触れることはありませんが、1つあたりの重さが30トンもの音響シェルターを支えて動かす設備として、何と舞台下の床に線路を思わせるレールが3本敷かれています! 音響シェルターはボタン操作1つで動き、1本のレールの上を1つのシェルターが走るのです。実際にどのように動くのかは下記の動画でご確認ください。
最適な音と心地よい鑑賞体験を
提供する座席へのこだわり
こうした音響へのこだわりが、実は座席にも施されているのをご存じでしょうか?Bunkamuraオーチャードホールのシンボルカラーである赤色のクッションが敷かれた椅子(すべて特注品)をよく見ると、背もたれの木材がちょうど座った時の耳の高さになっていて、さらにその両端が曲木加工によって包み込むように湾曲しています。こうした構造によって、舞台からの音が湾曲した木材に反射し、耳に届きやすくなるのです(ちなみに、角度の高い2・3階は背中が疲れないよう、1階席よりも背もたれが10mmほど高くなっています)。
また、これもよく見ないと気づきにくいことですが、椅子の座の先端側が臀部側に比べて細く、横から見ると三角形になっています。こうした形状によって、着席時に膝裏に当たる部分が減って足元のスペースに余裕が生まれ、ふくらはぎが圧迫されず足を引く動作もスムーズに行えるようになります。このように椅子の一つひとつにも、お客様がベストな環境で鑑賞できるよう工夫が施されているのです。
Bunkamuraオーチャードホールへ足を運んだことのない方が座席選びに迷った時のために、エリアごとの客席の特徴も簡単にご説明しましょう。1階席前方だと傾斜は緩やかですが演奏やパフォーマンスを至近距離で見ることができ、また前方中央ブロック1~19列席のみ2011年の改修工事で千鳥配置(列ごとに席を左右へ交互にずらした配置)へとリニューアルされ、従来よりも見やすくなりました。1階席後方になると舞台からの距離は遠くなりますが、前方エリアよりも傾斜があるので前の席を気にすることなく舞台全体を見渡しやすくなります。2・3階はバルコニー席だと、斜め方向になりますが正面席よりも近い距離から舞台を俯瞰で鑑賞でき、また上の方向へ飛んでいく弦楽器などの音が直接響いてくるので聴きやすくなっています。
※座席から見える舞台の写真をこちらのページでエリア別にご覧いただけます。
「心を満たす時」を提供するための、
人から人へのおもてなし
お客様がBunkamuraオーチャードホールに来場して最初に足を踏み入れるのが、ホワイエと呼ばれる入口から観客席までのロビー空間です。ここには自動販売機やコインロッカーを設けておらず、荷物やコートはスタッフがクロークでお預かりします。また、接客スタッフが懇切丁寧なご案内 (開業当初は東急百貨店の接客スタッフが対応していたそうです)を心がけるなど、 効率性だけを重視するのではなく「人と人とのかかわり」を大切にし、お客様と直接コミュニケーションを取ることで、開演前の高揚感や終演後の余韻に浸ることのできる特別な空間づくりに努めているのです。
また、客席およびロビーで飲食できない代わりに、2階ビュッフェでドリンクや軽食を販売し、ここで開演前や幕間に飲食できるようになっています。明かりが差し込む窓の外の眺めと共に解放感を感じながら、つかの間のリラックスした時間を楽しんではいかがでしょうか。
Bunkamuraオーチャードホールの歴史を知る
スタッフからメッセージ
最後に、開業時からの歴史を知る小泉直久支配人と、館内の技術設備のすべてを熟知している野中昭二テクニカルディレクターに、Bunkamuraオーチャードホールの思い出や今後についてお話を伺いましたのでお届けしましょう。
野中「私がBunkamuraオーチャードホールのスタッフになったのは1995年で、その翌年に『マダム・バタフライ』で初めてオペラ公演に関わり、100人以上のスタッフが関わる規模の大きさに『オペラって贅沢ですごいな』と驚いたことを今でも覚えています。また以前は、Bunkamuraオーチャードホールを含むBunkamuraの全館横断で行う企画もあり、東京国際映画祭でハリウッドスターを間近で見た時は感動しました。こうした全館横断の企画をまたいつかやってみたいですね」
小泉「全館横断の企画といえば、開業翌年の1990年に行った「UK'90」も思い出深いですね。渋谷の街にロンドンバスを走らせ、Bunkamuraオーチャードホールでは『ウェルシュ・ナショナル・オペラ』の初来日公演、Bunkamuraザ・ミュージアムでは『ロセッティ展』、Bunkamuraル・シネマではイギリス映画『ヘンリー五世』と全館をイギリスに染め、ダイアナ元妃も期間中にBunkamuraへ来場されました。初代の館長が『やってよかった』としみじみ語ったことを覚えています。今後Bunkamuraは改修などによっていろいろ変わっていくと思いますが、先人が行ったことや思いを受け継ぎ、開業時のコンセプトだった『心を満たす時があるBunkamura』をこれからも具現化していきたいですね」
文:上村真徹
Bunkamura magazine ONLINEでは、初めて文化・芸術に触れる方には入口となるような、これまで何度も足を運んでくださっている方にとっても新しい発見をしていただけるような記事をお届けしています。