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知れば歌舞伎がもっと分かりやすくなる!演目の種類と見どころ

映画にサスペンスやラブロマンスなどのジャンルがあるように、歌舞伎にも「演目」という作品を分類するカテゴリーがあります。この演目について理解しておけば、自分が見たい作品を選びやすく、歌舞伎鑑賞を楽しむ道しるべにもなります。今回は、成立期からの歴史を振り返りながら、歌舞伎における演目の種類や見どころを紹介します。


歌舞伎の成り立ちから分類されていった演目

歌舞伎の始まりは、慶長8年(1603)に出雲の阿国という女性が始めた「かぶき踊り」とされています。これは、世の中の常識に反抗し、人目につく華やかな衣装を着飾って町を歩く“傾奇者(かぶきもの)”と呼ばれる異端児を真似たもので、阿国は寸劇を交えた歌や舞を披露しました。かぶき踊りはストーリー性の薄いものでしたが、17世紀半ばに成人した男性だけが演じる「野郎歌舞伎」が確立されると、次第に演劇としての性格が強まっていき、芝居・踊り・音楽の3要素で楽しませる総合芸術へと進化。その過程で様々な演目が生まれていきました。

上)阿国歌舞伎図屏風 下左)(部分)出雲の阿国 下中)(部分)観客 下右)(部分)売店
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)
安土桃山時代に生まれた阿国は、自らを出雲大社の巫女と称して神歌や小唄を歌い、それに伴う踊りを舞っていました。やがて阿国は京都で「かぶき踊り」を始め、北野社境内勧進能の舞台跡などを借りて上演するようになったのです。写真の「阿国歌舞伎図屏風」では、阿国歌舞伎の代表的演目である『茶屋遊び』を演じている様子が描かれています。

歌舞伎の演目が増えていった背景として知っておきたいのは、同じ時代に発展し人気を集めた人形浄瑠璃との関係。歌舞伎が役者の技だけでなく演出にも力を入れていく中で、緻密な劇構造を持つ人形浄瑠璃の人気作品を台本に用いるようになったのです。このように人形浄瑠璃から歌舞伎化した作品は「義太夫狂言」と呼ばれ、『仮名手本忠臣蔵』や『曽根崎心中』など現在でも上演されている人気作品は少なくありません。
一方、文化・文政年間(19世紀前半)以降になると、4代目鶴屋南北や河竹黙阿弥らが最初から歌舞伎として上演するための作品を書くようになり、これらの作品は「純歌舞伎」と呼ばれています。さらに明治時代半ば以降には、歌舞伎とは直接関わりのない作家によって書かれた「新歌舞伎」が誕生。坪内逍遥の『桐一葉』や岡本綺堂の『修善寺物語』など文学色の強い作品が、近代的な演技や演出に基づいて上演されるようになりました。近年も、2024年5月にTHEATER MILANO-Zaで開催する『歌舞伎町大歌舞伎』で披露される『福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)』のように歌舞伎の伝統を踏まえた新作や、漫画やアニメを原作とした現代的な新作が作られています。

内容による演目分類で作品の特徴が見えてくる

歌舞伎の演目は、成り立ちだけでなく作品の内容によっても分類できます。
江戸時代に歌舞伎が大衆の娯楽として定着すると、当時の世相や風俗を背景とし、庶民にとって身近で親しみを感じられる現代劇が人気を集めました。これらの作品は「世話物(せわもの)」と呼ばれ、特に鶴屋南北の『東海道四谷怪談』や『桜姫東文章』のように下層階級の庶民の生活や性根を生々しくリアルに描いた「生世話物(きぜわもの)」が流行しました。現代の観客にとっては江戸時代の庶民の日常をタイムスリップしたような感覚で鑑賞でき、ストーリーも分かりやすいので親しみやすい演目といえます。

「桜姫東文章」 左)歌川豊国(三代)「息女桜姫・清水清玄」(『俳優似顔東錦絵』より) 国立国会図書館デジタルコレクション  右)月岡芳年「新形三十六怪撰 清玄の霊桜姫を慕ふの図」 国立国会図書館デジタルコレクション
文化・文政期に江戸で活躍した鶴屋南北が書いた『桜姫東文章』。生世話物を代表する人気作品です。自分を襲った顔も名前も知らぬ男を思い続ける桜姫、桜姫を襲った盗賊の権助、桜姫に亡き恋人の面影を重ねて執着する僧の清玄らが、数奇な運命に翻弄され因果の渦に呑み込まれていくスキャンダラスな物語がドラマチックに展開していきます。南北の生世話物ならではの生き生きとしたセリフも特長です。

一方、江戸時代の観客にとって遠く離れた題材を扱う「時代物(じだいもの)」も、世話物と並ぶ定番演目として人気を集めました。『仮名手本忠臣蔵』のように武家や公家の社会に起きた出来事や、『義経千本桜』のように江戸時代よりも古い時代の出来事をテーマとし、幕府からおとがめを受けないよう別の時代や名前に置き換えたり、史実に縛られず自由な脚色を加えていることが特徴的。歌舞伎ならではの様式美をより強調した演出も見どころです。
世話物と時代物という大きな分類のほかにも、人気作品が繰り返し上演される中でパターンが定着し、その共通の題材で括る分類も生まれました。代表的なものとして「お家騒動物」「仇討物」「心中物」などがあり、江戸時代末期には『白浪五人男』のように悪事を働きつつ義理人情に厚い盗賊が登場する「白浪物」も高い人気を博しました。

歌川豊国(3世)「初櫓噂高島」 東京都立図書館蔵
江戸末期に人気を博した、世話物の中でも盗賊を主人公にした演目の「白浪物」。幕末から明治時代にかけて活躍した河竹黙阿弥は、市川小團次と提携して『三人吉三廓初買』などの白浪物を多く書き、「白浪作者」と呼ばれるほど絶大な人気を得ました。『三人吉三』は2001年にコクーン歌舞伎第四弾として登場し、2014年にBunkamura25周年記念として上演した際はチケット即日完売という大盛況でした。

美しく様式化した踊りを愛でる歌舞伎舞踊

前述のように歌舞伎が演劇としての性格を強めていく中で生まれたのが、演劇と踊りを美しく様式化した「歌舞伎舞踊」。「所作事(しょさごと)」とも呼ばれ、演者が音曲に合わせて舞い踊ることで物語を表現します。その作品は数多くバラエティに富んでいて、女方・立役(男役)などの「役による分類」、あるいは道明寺物や道行物など「題材による分類」で特徴を分けることができます。
例えば、『歌舞伎町大歌舞伎』の幕開きを飾る舞踊『正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)』は、役で分類するなら「立役」で、題材は勇猛な曽我十郎・五郎兄弟を主人公とする物語を元にした「曽我物」。仇を討とうと勢い込む五郎とそれを止めようとする小林朝比奈が繰り広げる豪快な力比べは、「荒事(あらごと)」と呼ばれる歌舞伎ならではの見せ場です。

歌川豊国(3世)「正札附根元草摺」 東京都立図書館蔵
幼い頃から苦労を重ねた末に父の仇を討った曽我十郎・五郎の物語を元にし、江戸歌舞伎の初春狂言としておなじみの曽我物舞踊。その中でも特に有名なのが、曽我五郎と小林朝比奈が鎧の草摺を引き合う“草摺引”を題材にした『正札附根元草摺』です。草摺を引き合う様が力比べの趣向となっているのは、「荒事」と呼ばれる演出です。

また、『歌舞伎町大歌舞伎』で上演するもう一つの舞踊『流星(りゅうせい)』は、七夕の夜に牽牛(彦星)と織女(織姫)の前に現れた流星が、雷の夫婦と子雷、婆雷の騒動を軽妙洒脱な踊りで演じ分けます。このように、一人の役者が複数の役を踊り分けるのも歌舞伎舞踊ならではの特色であり見どころです。

豊原国周「日待遊月夜芝居」 東京都立図書館蔵
歌舞伎舞踊は単に舞を踊っているのでなく、ストーリー性を備え、踊りで物語を表現しているのが特色。『流星』は主人格の流星が雷一家の大騒動を牽牛織女に語って聞かせるという体裁で話が進んでいきます。激しい喧嘩を繰り広げる雷夫婦、その喧嘩を仲裁しようとする子雷と婆雷の姿を、流星が軽妙洒脱に演じ分ける姿が見ものです。

このように、演目の分類に注目しながら鑑賞すると、歌舞伎は作品の特徴がより理解しやすくなり、その見どころも楽しみやすくなります。ご自身の好みに合った作品と出会うきっかけとして、ぜひ参考にしてください。

文:上村真徹


〈公演情報〉
歌舞伎町大歌舞伎

2024/5/3(金・祝)~5/26(日)
会場:THEATER MILANO-Za (東急歌舞伎町タワー6階)

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