難しそうで実は親しみやすい!現代アートを楽しむためのコツ
Bunkamuraザ・ミュージアムは“観客とともに「発見」する、ひらかれた現代アート”をテーマに、2024年7月20日から東京・世田谷区の二子玉川ライズ スタジオ & ホールで『鈴木康広展 ただ今、発見しています。』を開催します。現代アートに対して敷居の高さを感じてしまう方も少なくないかもしれませんが、そこで敬遠してしまってはもったいない! 今回は、現代アートを気軽に楽しむためのポイントを、ザ・ミュージアムのスタッフへの取材を元に紹介しましょう。
現代アートとは?
なぜ分かりにくい?
そもそも現代アートとは何なのでしょう? 実は明確な定義はありません。“現代”と名が付くので「2~30年前くらいから現在までの作品かな」など年代による区分を思い浮かべる方もいるでしょうが、年代による区分は“現代アートの父”と呼ばれるマルセル・デュシャンが世に出た20世紀初頭以降、あるいはアメリカで多様な新しいアートが花開いた第二次世界大戦以降など諸説あります。また、現代に生まれた芸術作品すべてが現代アートと呼ばれているわけでもありません。むしろ、年代による区分よりも「何をどのように表現したものか」という観点から考えた方が、現代アートの本質を理解しやすいでしょう。
そこで参考になるのが、前述のデュシャンが“現代アートの父”と呼ばれるようになった経緯です。1917年にデュシャンは、男性用小便器に署名を描いただけのレディ・メイド(既製品の見方を変えて芸術表現の素材とする手法)による作品『泉』を発表。決まった芸術様式や美的価値に基づく従来のアートとは異なり、しかも今までアートとは認識されなかった新しい表現を通して「アートとは何か」と世に問いました。その後もデュシャンのように、作家が自由な表現方法によって社会への問題提起や意思表明を行う作品が次々と生み出されるようになり、これが現代アートを定義づける概念とされています。
一方、現代アート=難しいというイメージがあります。その要因としてザ・ミュージアムのスタッフが考察したのは、単に見た目の美しさを愛でるのではなく、作家が作品に込めたコンセプトやメッセージについて考えるという現代アートのあり方です。
「現代アートでは作家のコンセプトやメッセージが抽象的に表現されることが多いため、作品を一見しただけだと『どんな意味?』『何を感じればいいの?』と解釈に迷いが生じてしまいがちです。そんな時は作家自身が書いたメッセージや評論家による解説が理解の手助けになりますが、文章の言い回しやコンセプト自体が抽象的だったり難解で、余計に混乱する場合もあります」
こうした要素が相まって「現代アートは分かりにくい」と思われがちなのでしょう。
百聞は一見にしかず!
現代アートを楽しむコツ
では、現代アートの魅力を展覧会で楽しむにはどうすればいいのでしょう? 作家の問題提起や意思表明という現代アートのあり方を踏まえ、ザ・ミュージアムのスタッフがおすすめするポイントは「予習」です。「鑑賞前に作家の人となりや追求しているコンセプトについて調べてみてはいかがでしょうか。わざわざ文献を探して学習する必要はありません。展覧会の概要や作家のプロフィールを記したホームページを事前に一読しておくだけでも、作品を理解する手助けになりますよ」。また、さまざまな展覧会に足を運んで“場数を踏む”ことも「作家が作品に込めたコンセプトやメッセージを読み取るコツをつかみやすくなるのでおすすめ」だそうです。
その一方、作品鑑賞にあたって念頭に置いておきたいのが「作品の意味が分からなくてもいい」「すべての作家や作品を好きにならなくてもいい」ということ。現代アートは鑑賞者に思考を促すものですが、作家の意図通りに鑑賞し、いわば正解を導き出そうとする必要はありません。ザ・ミュージアムのスタッフはおすすめの鑑賞スタイルを次のように教えてくれました。「まずは無心で作品一つひとつと向き合い、すべての作品を完璧に理解しようと気負わず、現代アート以前の芸術と同じように『これは何だろう』『分からないけど何か面白い』と心に引っかかる作品を見つけたらじっくり向き合い、独創的な表現を楽しんでみてはいかがでしょうか」。
また、現代アートを体験できる場所は美術館の中だけではありません。近年は、自然豊かな島々を舞台に3年に1度開催されている瀬戸内国際芸術祭など、地域と強く結びついたアート作品を展示する町おこしタイプの芸術祭が全国各地で開催されています。アート鑑賞はもちろん観光も楽しむことができ、さらに作家の視点を通じてその土地について理解を深めることもできるので、現代アートに馴染みのない方たちの入口としておすすめです。
作品とコミュニケートできる体験型も!
身近に感じやすい“同時代”の現代アート
現代アートの表現方法は実にさまざまで、デュシャンが用いた便器のような身の回りの素材、音や映像など五感に訴える手法、空間全体を作品とするインスタレーションなど、アートの概念にとらわれないユニークな表現はむしろ馴染みやすさを感じさせます。また、作品を“見る”だけではなく“考える”こともポイントとなる現代アートには、鑑賞者が作品に“参加”する双方向的な体験型も少なくありません。ザ・ミュージアムのスタッフによると、『鈴木康広展 ただ今、発見しています。』でもそうした展示を楽しめるそうです。
「『鈴木康広展』では、開いた目と閉じた目がプリントされた葉の形をした紙が“まばたき”しているように舞い落ちる中に身を置く≪まばたきの葉≫など、作品世界への没入体験を楽しめる作品を展示します。このように、作家と鑑賞者の間の線引きを取り払い、作品を介して対話しやすくする表現も、現代アートの特徴であり魅力と言えるでしょう」
また、ザ・ミュージアムのスタッフが『鈴木康広展』を例に挙げてくれた現代アートの魅力として興味深いキーワードがありました。それは “同時代性”です。
「鈴木康広は身の周りに存在する何気ないものごとに注目し、小さな気づきを独自の視点で新たにとらえ直して作品を制作するアーティストですが、同じ国・同じ時代に生きている私たちにとってそうした“発見”はより身近なものとして共感しやすいですよね。つまり、社会や文化のバックグラウンドとして同じものを共有している同時代の作家だと、中世や近代などのアートと比べて作品やテーマを身近に感じたり理解しやすいと言えます」
“同時代性”の特長はそれだけではありません。ゴッホやピカソなど美術史に残る著名作家の多くは存命していませんが、現代アートであれば現在進行形で作家活動を追うことが可能なのです。その醍醐味としてザ・ミュージアムのスタッフは「例えば、ギャラリーやイベントで実際に会ったり、SNSを通じて作品の感想を伝えたり応援できます。さらに、大御所でなければ比較的手の届きやすい価格で作品を買えることもあり、お気に入りの作品を所有する楽しさも味わえます。これから有名になり世界へ羽ばたいていく作家を発見・応援できるのも、同時代性を備えた現代アートならではでしょう」と “推し活”としての楽しみ方を教えてくれました。
難しさや敷居の高さを感じがちな現代アートですが、実は意外と身近に感じやすく、楽しみ方も自由でさまざま。コンセプトに共感できる作家や興味を惹かれたテーマの展覧会にまずは足を運び、実際に作品を感じることから始めてみましょう。そうした体験を重ねるうちに、きっと自分なりの現代アートの楽しみ方が見つかるはずです。
文:上村真徹
〈展覧会情報〉
鈴木康広展 ただ今、発見しています。
開催期間:2024/7/20(土)~9/1(日)
会場:二子玉川ライズ スタジオ & ホール
「Bunka Essay」では、文化・芸術についてのちょっとした疑問や気になることを取り上げています。他の記事もよろしければお読みください。