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ピアノコンクールは自ら成長するための糧!/五十嵐薫子さんインタビュー

“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。今回は、ジュネーヴ国際コンクール第3位をはじめ、国内外のコンクールで数々の賞に輝く注目のピアニスト、五十嵐薫子さんをクローズアップします。


内面に広がる豊かな世界を感じさせる音楽

2022年、若手音楽家の登竜門として知られるスイスのジュネーヴ国際音楽コンクールで第3位を受賞、そのほかにも国内外のコンクールで数々の受賞を重ねてきたピアニストの五十嵐薫子さん。コンクールというとテクニカルな印象が強いかもしれませんが、五十嵐さんの演奏はそれだけでなく、内面に広がる豊かな世界を感じさせる詩情に満ちています。その音楽性は、いかにして育まれたのでしょうか?
五十嵐さんがピアノを習い始めたきっかけは、「家にあったピアノで『ねこふんじゃった』を弾いてみたら、祖父がすごく褒めてくれて。音楽を聴くのが好きだった母も、私にピアノを習わせたいと思っていたらしく、6歳からレッスンに行き始めました」とのこと。多くの音楽家を輩出してきた桐朋学園大学音楽学部附属 子供のための音楽教室に通いましたが、初めからピアニストを目指していたわけではないといいます。
そんな彼女に変化が訪れたのは、小学校3年生のときでした。「夏休みにヒマなら受けてみたら?」と勧められ、初めて受けたコンクールの全国大会で金賞を受賞。「緊張もしなかったし、楽しかったので、もっと人前で弾きたい!」と思ったそうです。「心臓に毛が生えてるねってよく言われてました」と笑う五十嵐さんですが、その頃からすでに“舞台に立つ人”だったのですね。

アルゲリッチにケンプ……
比べる対象が世界の巨匠だった

幼い頃からヴィルヘルム・ケンプやマルタ・アルゲリッチといった歴代の名演奏家たちのアルバムを聴いて育った経験は、五十嵐さんの音楽人生に大きく影響しているようです。「母は自分で弾けないからといって、小学生の私にもすごい高いレベルの要求をしてくるんです。『ケンプはそんな音じゃなかったわよ』とか(笑)。いつしか自分のなかでも、“アルゲリッチみたいに弾けない”と落ち込んだりするように。でもそうやって、最初から比べる対象が世界の巨匠だったおかげで、まわりの同級生と比べて悩んだり劣等感を抱いたりすることはなかったですね。それが良かったのだと思います」と語ります。
自分にとって大切な作曲家は「バッハ、モーツァルト、ショパン」。特にバッハは毎日必ず練習の初めに弾くようにしているとのこと。「バッハを弾くと、自分の心や身体の状態がわかります。“今日は手が疲れているな”とか“ちょっと焦っているな”とか、その日のコンディションに合わせて練習のメニューを組めますし、自分は何のためにピアノを弾くかということを確認するためにも、バッハは欠かせません」。
五十嵐さんがピアノを弾く時間と同じく大切にしているのが、一人で過ごす時間。「一人っ子で、両親の仕事が忙しかったこともあり、子どもの頃から一人でいる時間が長かったですね。ピアノを弾いているとき以外は、本を読んだり、走りに行ったりしています。幅広いジャンルの本を読みますが、たとえば小説を読み終わって感動した状態でピアノを弾くと、読む前とはまったく違った演奏になったりするので面白いです」と語り、意外な一面も見せてくれました。「自分の思うような演奏ができなかったり、弾けば弾くほど悪くなるように思えてしまうときなんかは、“もうヤダ! 無理!”とすべてを放棄して、一人で街を2〜3時間歩き回って、カツ丼とお酒を買って帰ったりすることも」あるそう。そんなギャップも五十嵐さんの魅力です。

コンクールを経験するたび、
自分に対する信頼が積み重なっていく

小学校3年生で初めてコンクールを受けてからというもの、毎年のようにコンクールを受け続けているという五十嵐さんにとってコンクールとは? という質問には、次のように答えてくれました。「コンクールって滝行みたいだなと思います。コンクールを目指して何ヶ月もかけて準備して培ってきたものって、ものすごく強くて。1回経験するごとに、自分に対する信頼が積み重なっていくんですよね。自分の思うような演奏ができることも、できないこともありますが、さまざまな経験があるからこそ、“あのつらい壁を乗り越えられたから今回も大丈夫”と思えます」。
11月19日には、オーチャードホールで開催されるBunkamuraオフィシャルサプライヤースペシャル『未来の巨匠コンサート2023』で、アンドレア・バッティストーニ指揮の東京フィルハーモニー交響楽団と、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」を演奏する大舞台が待っています。「オーケストラとのコンチェルトは、コンクールの本選で弾く機会はありましたが、今回のようなコンサートで弾かせていただくのはとても貴重な体験で、ドキドキしています。ベートーヴェンの『皇帝』は大学生のとき、学内のコンサートで同級生や先輩、後輩たちを集めてオーケストラを作って演奏した思い出の曲。その頃から応援してくださっているおじい様が、『いつかプロの舞台で皇帝を聴かせてくださいね』とずっとおっしゃっていたので、今回お聴かせすることができると思うと、とても嬉しいです」と意気込みを語ってくださいました。

今後の五十嵐さんの活躍から、ますます目が離せません。

文:原典子
写真:大久保惠造

〈プロフィール〉

2022年、世界5大コンクールの一つであるジュネーヴ国際コンクールにて、第3位を受賞。 桐朋学園在学中、第84回日本音楽コンクール第3位、併せて三宅賞を受賞する他、ピティナピアノコンペティションB級・特級、ショパンコンクール in Asia他受賞多数。 6歳より桐朋学園大学音楽学部附属 子供のための音楽教室でピアノを習う。桐朋学園大学を首席で卒業し、皇居内桃華楽堂での御前演奏会に出演。 徳永二男氏や長谷川陽子氏等との共演や、第89回日本音楽コンクール審査員賞受賞(チェロ部門共演)を受賞するなど、室内楽も精力的に行っている。
X @KaorukoIgarashi

〈公演情報〉
Bunkamuraオフィシャルサプライヤースぺシャル
未来の巨匠コンサート2023
2023/11/19(日)15:00開演
会場:Bunkamuraオーチャードホール

「Bunka Baton」では、“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語っていただきます。ぜひご覧ください。

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