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特別ワークショップレポート 第一弾 友枝雄人先生

 4月から開校した『コクーン アクターズ スタジオ(CAS)』は、 幅広いジャンルからの豪華なゲスト講師陣による〈特別ワークショップ〉も大きな特色。6月21日は能楽師として活躍する友枝雄人(喜多流シテ方)を講師に迎え、「能の呼吸、息による構えと発声」と題し、セルリアンタワー能楽堂で開催されました。

 まず前半は、祝いの席などでも謡われ親しまれてきた「高砂」を使った謡(うたい)の稽古。正しい正座や扇の扱いといった基本からスタートし、発声や呼吸法などを学びます。謡本の数行を読むだけでも、音程や速度、声の響かせ方や息継ぎの場所など、初心者にとってはひと苦労です。長時間の正座は初めての経験で、終わってもすぐに立ち上がれない生徒もチラホラ。言葉の一つひとつをじっくりと、腹に力を込めて〝語る〟ことの難しさが、生徒の様子からもひしひしと伝わってきました。講師からの「伝わる声、訴える声にしてほしい」「息という墨で(言葉を)描いてほしい」という言葉も印象に残りました。

 後半は立ち上がり、姿勢(構え)と足の運びの稽古。ただ立っているだけでもエネルギーを要する能の舞台。持ち上げた腕の高さや肘の角度が数ミリ違うだけで、舞台での見栄えが違って見えるのには驚きます。舞の基本となるすり足も、初心者にとっては一筋縄ではいきません。先生の足元をじっと見ながら、何度も動いてみる、真剣な表情が見られました。
 最後は一人ひとりが、揚幕から出てきて橋掛かりを歩き、本舞台まで進む本日の総仕上げ! ワークショップといえども“ソロステージ”だけに、全員が堂々と、今日一番の本気の顔をのぞかせました。

 講座の合間に、能楽の歴史や、3歳で初舞台を踏み研鑽を積んできた講師自身のエピソードなど、ちょっとしたお話が挟み込まれたのも価値ある時間。「能面をつけたら、自分の存在はなくし、役の型に自分をはめ込んでいく」という言葉も、個性を重んじる教育を受けてきた現代っ子には意外な考え方だったかもしれません。現代劇の基礎訓練は西洋の演劇メソッドが基本ですが、日本の伝統芸能には独自の歴史で培われた知恵が詰まっています。急がず焦らず、小っぽけな自己にとらわれず――先人の偉大さに触れながら長い目線で表現を磨く尊さや面白さなど、豊かで深い文化と思考に触れる素晴らしい機会にもなったでしょう。

 このワークショップは、CAS受講生が指導される様子を一般の観客が見学できるユニークな形式。最後の質問コーナーでは生徒に加え、客席からの質問に講師が解答。熱心な問いに一つひとつ丁寧に答えていく場面も見られました。
 講義が終わり、この日の手応えを先生に尋ねると「すでに訓練を積んでいる方々なので、躊躇することなく声もしっかり出ますし、集中力も高く、当初想定していたよりも少し先のレベルまで進んでしまいました。ジャンルは違えど、『日本語の台詞を喋る』という部分では僕たちと一緒。今日は日本語の扱い方、発声、言葉を大事にすることなどをお伝えできれば……と思ってのぞみました。大変な現代社会にあって、これだけの若い皆さんが舞台芸術の道を志していること自体が心強く、嬉しいですし、ぜひ頑張ってほしい。もうその思いばかりです」とのお答え。ひとときの時間を共に過ごした大先輩から“仲間”への、なんとも温かいエールが送られました。

文:川添史子

次回のCAS通信もお楽しみに!

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