14歳の新世代トランペット奏者は演奏もSNSも全力投球/児玉隼人さんインタビュー
“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。第11回は、14歳にして大舞台で活躍し注目を集めるトランペット奏者、児玉隼人さんをクローズアップします。
自ら考え、発信する14歳のトランペット奏者
「10歳以降に出場したコンクールではすべて1位および最高位を最年少で受賞」という経歴を持つ天才トランペット奏者、児玉隼人さんは現在14歳。けれど中学2年生とは思えない落ち着きを感じるのは、彼がしっかりした考えと目標を持ち、SNSを活用して自ら発信するなど、ひとりの音楽家として自立しているからでしょう。
楽器との出会いは5歳のとき。「クリスマス・プレゼントにドラえもんの四次元ポケットをお願いしたのに、コルネット(トランペットと似た小ぶりの楽器)が置いてあった」のがきっかけだそう。「その半年後ぐらいに、アンドレ・アンリさん(フランスのトランペット奏者)のコンサートを聴いて、僕もアンリさんと同じ仕事がしたい! 一緒にステージに立ちたい! と思いました。アンリさんから『いつか一緒にやろう』と言っていただいた言葉を信じて、それからは毎日練習するようになりました」と目を輝かせます。
チューバを演奏していたお父さんに導かれながらも、トランペットの先生にはつかず、長らく独学で練習していたというのも驚くべきところ。「去年まで北海道の釧路に住んでいたのですが、小学2年生のときに受けたコンクールで地区銀賞だったのがすごく悔しくて、札幌まで松田次史先生のレッスンを受けに行きました。それが人生初めてのレッスンで、間近でプロの音色を聴いて衝撃を受けましたね。1〜2回のレッスンでガラッと変わって、翌年のコンクールでは地区代表になって全道大会で金賞をとることができました。それでも釧路と札幌は片道4〜5時間の距離があるので、先生のレッスンはコンクールやコンサートの前に1〜2回といった頻度でした」。
豊かな響きの美しい音色が魅力の児玉さん。その秘訣を尋ねると、「YouTubeを最大限に活用して、モーリス・アンドレやラインホルト・フリードリヒなど、好きなトランペット奏者の演奏を見て、聴いて、勉強しています。小さい頃からそうやって“本物の音”を聴いてきて、たぶん僕は耳が良い方だったので、片っ端から真似してきたという感じです」と、なんとも現代っ子らしい答えが返ってきました。
SNSに毎日投稿して見えてきたこと
ネットの活用といえば、SNSに毎日の練習の様子を欠かさず投稿し続けたことでも話題を呼びました。「小学4年生のときのお正月に、“毎日トランペットを吹く”という目標を掲げたのですが、1日だけ吹かない日があって達成することができませんでした。そこで、SNSに練習動画を毎日投稿したら、使命感に駆られて続くのではないかと思ったんです。ちょうど5年生のときはコロナ禍で家からずっと出られなかったこともあり、1年間毎日吹いて、動画を投稿するという目標を達成することができました。そこでやめようかとも思ったけれど、投稿を見てくださる人がだんだん増えてきて。始めは自分の目標達成のためにSNSをやっていたのに、いつの間にかファンの方々とコミュニケーションをするツールにもなっていたんですね」。
最近はさすがに忙しくなり、毎日欠かさず投稿することはなくなったそうですが、自ら映像を撮って、コメントを書いて、SNSで発信するセルフプロデュース力はさすが。「練習で失敗した動画も、自分の日常の様子も、気軽に投稿できたのは小学生だったから。プライドもないし、まわりにライバルもいないので、怖いもの知らずですよね」と笑います。
中学2年生の4月からは関東に引っ越し、新しい学校での生活にも慣れてきたところ。「吹奏楽部に入りましたが、平日は楽器を出して15分ぐらい吹いて帰るみたいなユルい感じの部活なので、自由にやっています。この間の文化祭で吹奏楽部の一員として演奏したのですが、パートは当たり前のようにサードでした。転校生なので(笑)」と、普通の中学生らしい姿も。
2024年は、1月3日の『東京フィルハーモニー交響楽団 ニューイヤーコンサート2024』に出演し、アーバンの「《ヴェニスの謝肉祭》による変奏曲」を演奏します。トランペット奏者にとって難曲として知られるレパートリーについて、「曲の後半にいくにつれてどんどん難しくなっていくので、前半は余裕っぽく吹かなくてはと思っています。本当は前半も難しいので、余裕ではないんですよ(笑)。最後はトリプルタンギングに加え、跳躍があるので大変。下の音をフォルテ、上の音をピアノで吹くと、2人で吹いているように聞こえるんです。でも、ただ技巧的に難しいだけでなく、良いメロディですし、トランペットの魅力を存分に伝えられる曲だと思います」と聴きどころを語ってくれました。
「将来はソリストとしてだけでなく、オーケストラの団員としてもトランペットを吹いてみたい」という夢を抱く児玉さんにとって、東京フィルとの共演も楽しみとのこと。「弦楽器はゼロの状態からすーっと入っていけるところがいいなあと思います。トランペットはそういう音の出し方はできないので。だから弦楽器と一緒に演奏するのは、すごく楽しい。オーケストラ曲が大好きなので、チャイコフスキーの交響曲第5番や、ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番など、トランペットが活躍する曲をいつか吹いてみたいです」。
可能性が無限に広がる新世代の活躍に、ぜひご注目ください。
文:原典子
〈プロフィール〉
2009年、北海道生まれ。5歳のクリスマスにプレゼントされたコルネットをおもちゃ代わりに吹き始める。日本ジュニア管打楽器コンクール、日本クラシック音楽コンクールなど、これまで10歳以降に出場したコンクールではすべて一位及び最高位を受賞。コロナ禍で始めたSNSへの動画投稿で世界中からも注目され、海外からの取材なども受ける。これまでに、群馬交響楽団、東京佼成ウインドオーケストラ、名古屋フィルハーモニー交響楽団などと共演。これまでにトランペットを元札幌交響楽団の松田次史氏に師事。2023年から拠点を関東に移し活躍の場を拡げている。
YouTube
https://www.youtube.com/@hayatrumpet8810
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Instagram @hayatrumpet8810
〈公演情報〉
東京フィルハーモニー交響楽団
ニューイヤーコンサート2024
~どこかで出会った、あのメロディ~
1/2(火)、3(水)15:00開演 ※1/3出演
会場:Bunkamuraオーチャードホール
「Bunka Baton」では、“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語っていただきます。ぜひご覧ください。