「そもそも国際映画祭って?」映画祭の役割の中でも特に大きな2本柱を解説
日ごろニュースを見ていて、「日本の監督がカンヌ国際映画祭の賞に輝いた!」などといった記事が飛び込んでくると、なんだか誇らしい気持ちになります。でも「そもそも国際映画祭って?」「一体どんなことが行われているの?」と、実は知らないことばかり。そこで実際に、世界の映画祭に足を運んできたBunkamuraスタッフへの取材を元に、世界三大映画祭と呼ばれるカンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭をピックアップして、映画祭の役割の中でも特に大きな2本柱について解説します。
映画祭での公式上映の意義とは?
国際映画祭には、世界の映画人がこぞって集まります。映画祭にもよりますが、チケット自体は業界関係者ではない人も購入でき、普段はなかなか鑑賞できない各国の作品に触れて楽しめるチャンスがあります。今年、第37回を迎える東京国際映画祭や、近年存在感を増す釜山国際映画祭など、世界には実に多くの映画祭がありますが、やはりもっとも有名なのは世界三大映画祭です。
フランスで1946年にスタートしたカンヌ国際映画祭は、毎年5月に開催。映画祭のなかでも“特別”と言われ、多くの映画人が憧れを公言する映画祭です。ドイツで1951年から始まったベルリン国際映画祭は毎年2月に行われており、1932年に始まったイタリアのヴェネツィア国際映画祭は、毎年8月末から9月に行われています。
各映画祭には、賞の対象となるコンペティション部門を中心とするいくつかのカテゴリーがあり、選び抜かれた映画を、プログラムを組んで上映していきます。映画祭会場で毎日配布される業界紙には、各国の有名記者や評論家による星取が掲載され、上映された作品の評価が日々積みあがっていきます。しかし映画祭の賞を選ぶのは、あくまでも審査員。受賞式では、星取表や、ニュースでも見聞きする「上映後に10分間にわたるスタンディングオベーションが!」といった評判とは全く違った結果になることも多くあります。
キャストや監督たちが姿を見せる華やかな開幕式にはじまり、10日前後にわたって開催され、コンペティションの結果が言い渡される受賞式をもって閉幕。カンヌ国際映画祭はパルム・ドール、ベルリン国際映画祭は金熊賞、ヴェネツィア国際映画祭は金獅子賞と、それぞれの最高賞の名前もよく知られています。業界関係者以外も参加できる映画祭では、観客賞も設けられていることが多く、最高賞は言わずもがな、製作陣にとっては、観客賞もこの上ない喜びです。
日本もしかりですが、こうした映画祭での受賞は、公開時に大きな力になります。素晴らしい作品であっても、たとえば知名度の低い監督やキャストの作品、長時間の作品などは観客の足が遠のきがちです。しかし国際映画祭で賞を獲得したと聞けば、それが興味や鑑賞意欲に繋がります。映画祭での評価は、その場の栄誉だけでなく、観客との橋渡しにもなります。
映画祭のもう一つの大きな役割「マーケット」とは?
公式上映と同時に、映画祭で重要な意味を持つのが、マーケットとしての役割です。映画を売る海外セールス会社、買う配給会社、上映作を選定する興行関係者。そうした人々が世界各国から集う機会なので、売り買いの場であるマーケットも併設されています。公式上映とは別に、バイヤー用の試写のスケジュールが組まれ、セールス会社のブースが並ぶ会場があり、毎日、さまざまなやりとりが行われているのです。
カンヌ国際映画祭には、マルシェ・ドゥ・フィルムというマーケットが併設されていますが、海岸沿いに並ぶ高級ホテルの部屋でも商談が行われています。映画祭で公式に上映される作品以外にも、マーケットで初披露される作品があり、バイヤーたちは双方のスケジュールをチェックします。ベルリン国際映画祭にはEFM(ヨーロピアン・フィルムマーケット)が同時開催されています。
バイヤー用にプライベート試写も行われます。そこでは世に言うプレミア上映より前に作品上映が行われており、まだ作品のレビューもなく、情報も少ない中、まっさらな状態で本編を観ることになります。
たとえばル・シネマでも上映して大ヒットした『君の名前で僕を呼んで』(2017)。1月のサンダンス映画祭でワールドプレミアされた本作を、2月のベルリン国際映画祭で鑑賞したル・シネマスタッフは、「映画祭のホームページに掲載されていたのは確か、“ある夏の日の、年上の同性との友情もの”とも受け取れる1枚の写真と簡単なあらすじのみでした。『燃ゆる女の肖像』(2019)は、ドレス姿の女性の後ろで炎が燃えている写真。『幸福なラザロ』(2018)もいつの時代の物語かも判別できないような写真でした。入り口とまったく違う出口に連れて行ってもらえる未知の体験ができるのも、映画祭という出会いの場の楽しみのひとつです。」と語ります。
最近の作品では、昨年のカンヌ国際映画祭でお披露目された『落下の解剖学』(2023)もル・シネマスタッフにとって大きな出会いだったそう。「裁判劇であり、セリフ量の多い作品ですが、作品の持つただならぬパワーに、受賞結果も分からない中、ル・シネマで上映したいと強く思いました。結果、パルム・ドールに輝く作品となり、ル・シネマ 渋谷宮下でもヒットを記録しました。」
ちなみに、近年では黒沢清監督の『スパイの妻』(2020)が銀獅子賞、濱口竜介監督の『悪は存在しない』(2023)が銀獅子賞と国際映画批評家連盟賞を受賞しているヴェネツィア国際映画祭には、そういったマーケットは併設されておらず、東京からバイヤーが参加することはあまりありません。
世界中から“人”が集まる映画祭には、こんな醍醐味も
その後の映画史にも残る傑作のワールドプレミアに立ち会った場合、参加者は最初の目撃者になります。新しい才能、映画に出会う、その感激はひとしおです。世界の映画祭はそれぞれに特色がありますし、批評家や配給会社、興業者など、みな日ごろは立場が違います。当然、ブーイングが起きたり、席を立つこともありますし、厳しいビジネスの場でもあります。それでもすごいエネルギーを持った作品、才能を目撃したとき、同じ喜びを共有する場であることは共通しています。
世界中から“映画を愛する人”が集まる映画祭。そこから届けられたパワーも、私たちはスクリーンから受け取っているのかもしれません。
文:望月ふみ
〈Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下〉
東京都渋谷区渋谷1-24-12 渋谷東映プラザ 7F&9F(1F:チケットカウンター)
開館時間:10:00
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