自ら発見した世界の見方をアートで伝える/鈴木康広さんインタビュー
身の回りに存在する何気ないものごとに注目し、小さな気づきを独自の視点でとらえなおす作品を制作してきたアーティスト、鈴木康広さん。この夏、二子玉川ライズ スタジオ & ホールで個展『鈴木康広展 ただ今、発見しています。』を開催します。本展を前に、彼が歩んできたアーティストへの道をうかがいました。
テレビ番組から開けたアーティスト・ライフ
デビュー以来、国内外で高い評価を得てきた鈴木康広さんは、現在45歳にして、武蔵野美術大学の教授もされています。鈴木さんはどのようにしてアーティストとなったのでしょう? そのきっかけをうかがいました。
「僕は子供の頃から、世の中の様々な事象について、自分なりに見つけた考え方やアイデアを人に伝えることが好きでした。ところが、将来のことを考えても、それを仕事としてどう生かせるのか全くわからなかったのです。それで就職活動は一切せず、とにかく大学4年間で自分が面白いと思ったことを具現化できるよう卒業制作に取り組んだことを覚えています」
こうして生まれた作品が、鈴木さんの初期の代表作《inter-reflection》(椅子の反映)。5本の弧の上で回転するミニチュアの椅子の影が、五線譜の上で踊っているようにもみえる、とても詩的な作品です。本作は当時NHKのBSで放送されていたデジタル・スタジアム、通称「デジスタ」のアシスタント・ディレクターの目にとまり、鈴木さんは番組へ応募をすることになりました。残念ながら《inter-reflection》(椅子の反映)は、番組で採用されることはありませんでしたが、鈴木さんはこれが契機となって本格的なアーティストとして一歩を踏み出すことになりました。
見知らぬ人に電源を借りて生まれた代表作
公園の回転する遊具に子どもたちが遊ぶ姿を投影し、残像効果で映像を浮かび上がらせる《遊具の透視法》(2001年)も、同じ年の夏に生まれた鈴木さんの代表作です。
「この時のデジスタのテーマが“街のなかでこそ魅力を発揮するメディアアート”だったのですが、良いアイデアが浮かばず、追い詰められて公園のベンチに座っていた時にひらめいたのが本作です。プロジェクターを何とか知人から借りてきて、昼間撮影した映像を遊具に映そうとしたのですが、ここで初めて公園に電源がないことに気がついたんです」
そこで鈴木さんは、なんと公園から一番近い家の玄関チャイムを押し、電源を貸して欲しいと交渉したというのです。
「2回交渉に行きました。22、3歳の見ず知らずの若い男に、突然電源貸して欲しいなんて言われたら普通驚きますよね。ところがその家の人は、夏にバーベキューをするために買っておいた新品の発電機を貸してくれたんです」
こうして誕生した《遊具の透視法》は、見事「デジスタ」のインタラクティブ部門 最優秀賞、デジスタアウォード2001 最優秀賞を受賞。
「公園で試作をしていた時には、電源を貸してくれたおじさんも協力してくれて、記念すべき最初の観客になってくれました。田舎育ちなので、電源なんて誰でも貸してくれると思い、簡単にピンポンを押してしまったんですよ。もちろん今は、それが都会では非常識な行為だということはわかっています。でも、時にその壁を打ち破ってピンポンすることで、道が開けるようなこともあるのではないかとも思うんです」
さまざまな人の見方が引き出すアートの魅力
ちなみに鈴木さんが卒業制作で制作した《inter-reflection》(椅子の反映)、翌年の2002年に行われた大きなアート・コンペ、フィリップモリス・アートアワードで大賞を受賞します。
「その時の審査員の中に、国際的に著名な批評家のスーザン・ソンタグがいて、後から彼女が僕の作品をとても評価してくれていたことを知りました。椅子の作品も遊具の作品も映像作品で、どちらも不在感というか、人の気配というか、人間の居場所を感じさせるような作品なのですが、それを彼女のようなホロコーストという民族の記憶を持った方が高く評価してくれたのは不思議な気分でした。僕としては椅子と音符の間にかくれていた関係を発見した驚きを身近な人に見せたくて作った作品でしたが、見る人の立場や見方によって、人類がずっと抱えてきた難しい問題を内包した作品にもなる。コンセプトがなくても、そこにある作品自体にいろいろな意味が潜んでいるのかな、と思うようになりました」
アイデアを作品にすることで大忙し
デビュー以来、順風満帆なアーティスト人生を送っているようにみえる鈴木さんですが、スランプはないのでしょうか?
「気持ち的には落ち込むこともありますが、20代の頃は作りたいものがありすぎて、そのことばかり考えて忙しかったというのが正直なところです。とにかく自分の考えていることを形にしなければ、といつも思っていて、基本的に作品は自分の手でつくるので時間がかかりますが、思いついたらすぐに作ってみたいと思ってしまいます。小さなアイデア、小さな発見は常に携えていて、それを書いたノートをめくっているだけで、あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ、と1人で盛り上がっている感じです。おそらく特定の作品にのめり込みすぎるとスランプに陥ったり、枯渇してしまうかもしれませんが、僕は常に複数の作品を考えて、ものを作ったりスケッチしたりしているので、全然スランプに陥ることはないですね」
世の中は「発見」に満ちている!
そんな鈴木さんは、7月20日(土)より、二子玉川ライズ スタジオ & ホールで個展『鈴木康広展 ただ今、発見しています。』を開催にあたり準備中です。
「新幹線などのチケットを買う時、自動音声で発券機が“ただ今、発券しています”としゃべりますよね。僕は、この“発券”を“発見”と聞きまちがえてしまって、そういえば“発見した”とか“発見する”とはいっても、“発見しています”と現在進行形で使うことはないなあ、と思ったんです。でも、この瞬間にも、何かを“発見した!”と思っている人は世界中にたくさんいるはずですし、何かに夢中になっている子供も、実はその子にしかわからない発見をたくさんしていると思うんです。ただし、自分で意識しないと、それが発見だとは気づきません。そこで、実は世界はさまざまな発見の種で満ちていることを、見方をチェンジすることで気がつくような、そんな展覧会をつくりたいな、と思っています」
文:木谷節子
〈プロフィール〉
2001年東京造形大学デザイン学科卒。2014年に水戸芸術館、金沢21世紀美術館で個展を開催。現在、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員。NHK Eテレ「みたてるふぉーぜ」(2023年~)総合指導。
Instagram @mabataki_suzuki
X @mabataku
ホームページ http://www.mabataki.com/
〈展覧会情報〉
鈴木康広展 ただ今、発見しています。
開催期間:2024/7/20(土)~9/1(日)
会場:二子玉川ライズ スタジオ & ホール
「Bunka Baton」では、“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語っていただきます。ぜひご覧ください。