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感動が生まれる場所〜劇場紹介その⑤ めぐろパーシモンホール

Bunkamuraの主催企画を開催する劇場やホールをご紹介するレポート。「一度は生で音楽や演劇を鑑賞してみたい」と思っている方が気軽に足を運ぶきっかけになるよう、またすでに何度も足を運んでいる方も「このホールはこうなっていたのか!」と新たな発見を得られるよう、様々な角度から劇場・ホールの特徴に迫ります。 第5回は、Bunkamuraを飛び出して様々な個性を持つ外部ホールで上演する「ORCHARD PRODUCE」のオペラ企画第1弾『魔笛』の公演会場となる、めぐろパーシモンホールです。


自然と調和し、四季折々の姿を
見せる“丘の上のホール”

東急東横線都立大学駅から坂を登った丘の上に建つ「めぐろパーシモンホール」。1991年に東京都立大学が南大沢へと移転し、キャンパス跡地の利活用を検討する中で「区民が良質な文化芸術を鑑賞し、自らも参加する機会を促進できるような施設」を求める声が上がり、2002年9月に誕生。大ホール(最大1200席)と小ホール(最大200席)があり、クラシックコンサートを中心に舞台芸術や落語の公演、さらにバレエスタジオの発表会やワークショップなど多様な用途で利用されています。
閑静な住宅地に隣接するホールの目の前には、木々や芝生の緑が鮮やかな公園が整備されていて、春の桜など四季折々の自然の変化を感じることができます。建物正面のホワイエは全面ガラス張りで、外から明るい光がたくさん入り、中からは公園の豊かな緑が目に映るという開放的で心地よい空間。ビュッフェでドリンクや軽食を提供するだけでなく、昼下がりに乳幼児の親子向けコンサート、夜に目黒区の地ビールを味わえるジャズライブが開催されることもあります。

めぐろパーシモンホールの目の前には並木や芝生広場が整備されていて、都心のホールでありながら豊かな自然を感じることができます。また、全面ガラス張りの建物正面に位置するエリアは大ホールのホワイエになっていて、豊かな光と開放的な眺望が得られる開放的かつ心地よい空間です。

こだわりの設計で
豊かな音の響きを実現

クラシックコンサートや舞台芸術の公演が開催される大ホールは、壁や天井からの反射音が客席全体に届きやすい直方体のシューボックス型構造。音の豊かな響きに定評があり、お客様からも演奏者からも「他のホールに引けを取らない」と好評を集めています。音響設計の隠れたこだわりとして注目したいのがホールの壁面。メープルの角材を平面状ではなくデコボコに配置することで音がよりランダムに乱反射し、どのエリアの席からでもよく聞こえるのです。さらに、舞台の天井に吊るされた優雅なシャンデリアにも音響反射板を設置。ホールのスタッフが各公演に適した音の響きになるよう、シャンデリアごと高さを調整しています。

良質な音の響きを得られるよう、大ホールのあちらこちらに音響設計の工夫を施しています。人工衛星の太陽光パネルで用いられている“ミウラ折り”という折り方を天井の木材に応用し、音を様々な方向へ分散。さらに、“八雲シャンデリア”と名付けられている舞台天井のシャンデリアにも音響反射板を設置していて、高さを変えることで微妙な音の響きを調整できます。

ちなみに、舞台側面と後方の音響反射板は日本初の吊り下げ式で、オペラなどステージ空間を広く確保する必要がある場合は舞台上空に格納されます。吊り下げ式だと反射板を移動させるためのレールを敷かなくて済むので、フラットにステージ空間を利用できるのが大きな特長。幅広い公演に対応するめぐろパーシモンホールならではのこだわりがここにも感じられます。
また、大ホールには電動式自動収納のオーケストラピットを1階客席1~5列目に設置。一般的にオーケストラピットは指揮者や演奏者が隠れる深さまで下げられますが、今回の≪魔笛≫公演では鈴木優人さん率いる古楽器オーケストラ「バッハ・コレギウム・ジャパン」の演奏姿が見えるよう、通常の公演よりも若干浅く設置される予定だとか。公演当日はぜひオーケストラピットにも注目しましょう!

一般的なホールだと舞台床上の音響反射板をレールで移動させていますが、めぐろパーシモンホールの音響反射板は日本初の吊り下げ式。音響反射板を使用しない場合は、ステージ裏上空の広大な格納スペースに移します。

どこから見ても特等席!
快適かつ心地よい鑑賞体験を提供

めぐろパーシモンホールがこだわっているのは音の響きだけではありません。大ホールの客席は1階・バルコニー・2階ともに段差が大きく、どの席に座っても前方の視線をさえぎられず、舞台が見やすくなっています。また、座席は背中をもたれ掛けると少し倒れる半リクライニング式(一部座席を除く)。長時間の公演でも快適かつ心地よく鑑賞できるようになっているのです。なお、通路側の座席に手すりが設置されていて、段差が急でも安全に移動できるのでご安心ください。

大ホールの客席は一般的なホールよりも段差が大きめ。前に座っている方に視線をさえぎられることなく、どの席からでも舞台がよく見えるようになっています。まさに“どこから見ても特等席”! また、通路側の座席には棒状の手すりを設置。手すりを握りながら通路の階段を上り下りし、段差が急でも安全に移動できるよう配慮されています。

このように“どこから見ても特等席”な大ホールにおいて、エリアごとの鑑賞体験の特徴も簡単にご説明しましょう。1階中央列より少し前(12~14列目くらい)の席に座ると、舞台に立つ人物を見上げたり見下ろすことのない高さになり、オペラや演劇で出演者の表情をよく見ることができます。一方、舞台全体を見渡したりオーケストラ全体の演奏をバランスよい音で聞きたい方には2階がピッタリ。バルコニーは見える角度こそ斜めになりますが舞台までの距離が近くて臨場感があり、各座席が個室のようにボックスに分かれているので、普段なかなか味わえない鑑賞体験を求めている方におすすめです。また、最も舞台が見えやすい1階中央列に車椅子スペースをゆったり確保し、誰もが公演を楽しめるよう整備されています。

モーツァルトの時代の音に
包まれる極上のオペラ体験

めぐろパーシモンホールでは今回の『魔笛』を皮切りに、「ORCHARD PRODUCE」のオペラ企画としてモーツァルトのオペラシリーズを3年間にわたって実施していきます。その第1弾を飾る『魔笛』公演の注目ポイントを、今回取材に応じていただいたホール事業課スタッフに尋ねたところ、次のように語ってくださいました。
「世界的な古楽器オーケストラであるバッハ・コレギウム・ジャパンがモーツァルトの時代の音楽を忠実に再現し、しかも国内外のトップクラスの歌手たちが出演するという、とても貴重な公演です。古楽器に用いられるガット弦から出る音は一般的なスチール弦と比べて柔らかくて、音の響きが豊かなパーシモンホールと相性がいいと思います。日本画の巨匠・千住博さんが『魔笛』の美術空間をステージ上でどのように創造するのかも楽しみです」
最後に、めぐろパーシモンホールへ訪れるお客様に向けて、事業課スタッフの皆さんからメッセージを頂きましたのでお届けしましょう。
「普段オーチャードホールで行われるような公演を今回開催することができ、我々スタッフも楽しみで仕方ありません。東急東横線に乗れば渋谷からすぐにアクセスできるので、ぜひ気軽に足をお運びください。そうしてパーシモンホールを訪れた方たちに『今度は別の公演で来てみようか』と思っていただき、次のご来場につながれば嬉しいです」(事業課長 松浦智史さん)
「開館から20年以上経つと、子どもの頃にバレエ教室の発表会でステージに立ち、大人になってオペラ鑑賞で再び足を運ぶというふうに、長いサイクルでパーシモンホールと関わってくださる方も多くいらっしゃいます。これからも質の高い文化芸術の公演をご紹介しつつ、地域の方々に長く親しんでいただけるような存在でありたいです」(事業係長 小比類巻由乃さん)
「都立大学駅から坂道を上り、さらに公園を抜けてパーシモンホールへたどり着くまでの間に、少しずつ気分が高揚していきます。そうした時間も含めて、公演だけでなく街の雰囲気も一緒に体験していただけると、より楽しい時間を過ごせると思います」(事業課 比留間彰子さん)

文:上村真徹

〈公演情報〉
Bunkamura35周年記念公演
ORCHARD PRODUCE 2024
鈴木優人&バッハ・コレギウム・ジャパン×千住博 
モーツァルト:オペラ≪魔笛≫(新制作・全幕上演)
2024/2/21(水)18:00開演
2024/2/22(木)14:00開演
2024/2/24(土)14:00開演
2024/2/25(日)14:00開演
会場:めぐろパーシモンホール 大ホール