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【1994年のBunkamura】コクーン歌舞伎が誕生!中国映画の金字塔『さらば、わが愛 覇王別姫』を上映

「Bunkamura History」では、1989年にBunkamuraが誕生してから現在までの歴史を通じて、Bunkamuraが文化芸術の発展にどんな役割を果たしたか、また様々な公演によってどのような文化を発信したのか振り返ります。第7回は、1994年に各施設で行った公演や展覧会を紹介します。


■オーチャードホール:ジェラード・シュワルツがプロデューサーに就任し『定期演奏会』がスタート

ニューヨークのリンカーン・センター毎夏恒例の音楽祭『モーストリーモーツァルトフェスティバル』で音楽監督を1982年から2001年まで務めた指揮者のジェラード・シュワルツは、1991年の同音楽祭日本公演以来、オーチャードホールがすっかり気に入ったそうです。そうした縁から1994年1月にオーチャードホールのプロデューサーに就任し、同年春からフランチャイズオーケストラである東京フィルハーモニー交響楽団との『G・シュワルツ:オーチャードホール定期演奏会』をスタートしました。
この定期演奏会は、Bunkamuraの運営の軸を成すプロデューサーズ・オフィス、フランチャイズ・システム、シーズン制、オフィシャルサプライヤー・システムを一つの企画に融合させ、毎年春・秋・冬にそれぞれA・B、二つのプログラムで3年間に渡って行われたもの。記念すべき第1回の『1994[春]』は、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲やブラームスの交響曲第1番といった人気曲に加え、リヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン協奏曲など普段演奏される機会の少ない作品も取り上げるという意欲的なラインナップ。ドミトリー・シトコヴェツキーをソリストに迎え、多くの聴衆を魅了しました。

写真は1994年秋の定期公演。ソリストに迎えたアレッサンドラ・マーク は、世界の主要歌劇場で活躍する一方、コンサート歌手としての評価 も高いドラマティック・ソプラノ。その持ち味をワーグナーのオペラ・アリ アやマーラーの交響曲第4番で存分に発揮しました。


写真は1995年秋の定期公演。国際的に活躍するピアニストのアンドレ・ワッツをソリストに迎え、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番と第5番「皇帝」を演奏。抒情的な第4番と華麗な「皇帝」という、 それぞれの曲の魅力を繊細かつ鮮やかに弾き分けました。

●シアターコクーン①:第一回シアターコクーン戯曲賞受賞作『NEVER SAY DREAM』を上演

Bunkamuraでは文化の発信だけでなく、その新たな担い手たちを発掘する取り組みも行ってきました。その一つが「シアターコクーン戯曲賞」です。これはシアターコクーン初代芸術監督である串田和美の発案によって創設したもの。選考委員は全員が演出家で、文学性や脚本としての価値をジャッジすることに重きを置くのではなく、シアターコクーンで上演したいと思える作品を取り上げ選者が演出するという趣旨でした。
第一回は144編の応募作が集まり、演出家たちが議論を重ねた結果、当時大学生だった台場達也の処女作『NEVER SAY DREAM』が受賞。本作は、ある少女がつくり出した空想の街がもろく壊れていく様を描いたもので、選考委員の一人だった栗山民也が演出を担当。主人公の少女二人を藤谷美紀と西尾まりが演じるという作品同様フレッシュな顔合わせで、1994年4月にシアターコクーンで上演しました。なお、シアターコクーン戯曲賞は「内容は優れているが、劇場の規模に合致する応募作品がない」という理由から第三回をもって終了しています。

当時、大阪大学4年に在学中だった台場達也の処女作『NEVER SAY DREAM』。シアターコクーンという空間にふさわしい作品になるよ う、選考委員であり本作の演出を務めた栗山民也と共に台本の書き 直しを重ねた末に、上演へとこぎ着けました。

●シアターコクーン②:渋谷・コクーン歌舞伎が第一弾『東海道四谷怪談』で幕を開ける

古典歌舞伎を現代的な解釈で読み直し、現代に重ね合わせて演出する斬新な手法で次々と話題作を生んできた『渋谷・コクーン歌舞伎』。これは芸術監督の串田和美が、歌舞伎の原点に立ち返って“芝居小屋”としてシアターコクーンの劇場空間を再構築したいという就任時より抱いていた構想の一つでした。実験歌舞伎に意欲的だった五代目中村勘九郎(後の十八代目中村勘三郎)とタッグを組み、1994年5月に第一弾として『東海道四谷怪談』を上演しました。
本作は、早変わりなど歌舞伎ならではの醍醐味で観客を魅了する一方、30トンの水を入れた大きな水槽を舞台に設営し、勘九郎と三代目中村橋之助(現・中村芝翫)が水中で立ち回りを繰り広げるという斬新な演出で度肝を抜きました。また、芝居小屋につきものの桟敷席を1階席に設けるなど劇場空間にも工夫が凝らされ、シアターコクーンならではの歌舞伎世界を創出。その後もコクーン歌舞伎は意欲的な挑戦を繰り返し、現在に至るまで進化を続けています。

コクーン歌舞伎の記念すべき第1弾として上演された『東海道四谷怪談』。お岩・与茂七・小平の三役を務めた中村勘九郎は、舞台に巨大な水槽を設け、その中から出て宙乗りするなど斬新なアイデアを次々と実現。その上で歌舞伎の醍醐味を存分に披露し、シアターコクーンならではの歌舞伎世界を余すところなく魅せました。

▼ザ・ミュージアム:消えゆく労働の現場を記録した『セバスチャン・サルガド写真展 WORKERS』を開催

ブラジル出身の報道写真家セバスチャン・サルガドは、世界各地の農場・鉱山・造船所・工場などで働く人々を1986年から6年間にわたって撮影。機械化によってその存在が消えつつある労働現場のありのままの姿を、考古学的観点から記録しようと試みました。それらの写真は作品集『WORKERS』としてまとめられ、さらにこの中から厳選した約250点の作品が、1994年6月にザ・ミュージアムが開催した『セバスチャン・サルガド写真展 WORKERS』で展示されました。
サルガドの作品は「被写体と同じ現実に生きる」という信念に基づいて撮影されたもので、また撮影者によるテーマ性の押しつけがましさもなく、多くの人々が直接目にすることのない現実を提起したもの。さらに、過酷な労働を投げ出すことなく真摯に取り組む人々への敬意と称賛が表現されていて、来場者の共感を誘いました。

セバスチャン・サルガドは世界22ヵ国で42回にのぼる取材を行い、鉱山・造船所・工場・農業や漁業など、都市生活の中で見失われてしまっている労働の現場を撮影して記録。そうした“産業時代の考古学”といえる写真を作品集『WORKERS』としてまとめ、その中から厳選した約250点を展示しました。

◆ル・シネマ:当館初のアジア映画『さらば、わが愛 覇王別姫』を上映

ル・シネマでは開館当初からフランスを中心にヨーロッパの作品を上映する一方、アジア映画の名作も劇場の歴史に名を刻んできました。その記念すべき第1作となったのが、京劇の古典「覇王別姫」を演じる二人の役者の愛憎を名匠チェン・カイコー監督が壮大なスケールと華麗な映像美で描き、カンヌ国際映画祭で中国映画初のパルムドールを受賞した『さらば、わが愛 覇王別姫』です。
1994年2月に封切られるや、パルムドール受賞作をひと目見ようと多くの映画ファンがル・シネマに足を運び、女形の役者を演じたレスリー・チャンの美しさ、元娼婦役コン・リーの力強い存在感などに魅了されました。その感動をもう一度と熱狂的なリピーターが生まれ、最終的にはのべ43週にわたるロングランヒットを記録。2022年にも特別上映を行い、根強い人気を証明する大盛況となりました。

中国語映画として初めてカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した名作『さらば、わが愛 覇王別姫』。日本での公開が待ち望まれた本作は、1993年の東京国際映画祭で特別招待作品として初公開され、1994年2月にいよいよル・シネマで封切り。延べ43週以上のロングランヒットを記録し、その後も再上映されるほどの大人気を博しました。

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