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【1993年のBunkamura】バレエ界の革命児が来日!串田ワールド全開の『阿呆劇 三文オペラ』を上演

「Bunkamura History」では、1989年にBunkamuraが誕生してから現在までの歴史を通じて、Bunkamuraが文化芸術の発展にどんな役割を果たしたか、また様々な公演によってどのような文化を発信したのか振り返ります。今回は、1993年に各施設で行った公演や展覧会を紹介します。


■オーチャードホール:世界のバレエ界に旋風を巻き起こした「ネザーランド・ダンス・シアター」が再来日


1959年にオランダで結成され、世界的に有名なコンテンポラリーバレエカンパニーへと飛躍した「ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)」。伝統的なヨーロッパ・クラシックスタイルとアメリカ的モダンダンスの手法を融合・昇華させ、世界のバレエ界に旋風を巻き起こしたNDTは、日本にも1990年6月に初来日。オーチャードホールでの公演が大きな反響を呼び、舞踏批評家協会賞を受賞しました。


イリ・キリアン率いるネザーランド・ダンス・シアターの初来日は1990年。クラシック・バレエとモダンダンスの両方の長所に加え、民族舞踊の要素や心理的表現を加えた多彩な作品の数々に、観客は衝撃と感動に包まれました。

それから3年後の1993年、待望の2度目の来日公演が実現。1978年からNDTの芸術監督兼常任振付家を務め、数々の作品で団体の名声を高めることに貢献したイリ・キリアンの傑作中の傑作といえる『輝夜姫(かぐやひめ)』『ノー・モア・プレイ』『詩篇交響曲』などを上演しました。なかでも、日本人作曲家・石井眞木の音楽にキリアンが振り付けた『輝夜姫』は、雅楽の楽器と打楽器が織りなす張り詰めた音空間の中で、鍛え上げられた肉体のダンサーたちが強く激しく踊るという、まさに目から鱗が落ちるような衝撃作。バレエの革命というべき美の世界に、オーチャードホールは陶酔と熱狂に包まれました。

2度目の来日公演での上演作『輝夜姫』は『竹取物語』から題材を得たもので、さらに雅楽の楽器を奏でるという、西洋と東洋を融合させた意欲作。キリアンが築き上げた独自の世界は、1990年の初来日公演に匹敵する驚きと興奮を生み出しました。

●シアターコクーン①:串田ワールドが炸裂!『阿呆劇』シリーズ第1弾『三文オペラ』を上演

シアターコクーンでは、1993年秋のオンレパートリー第1弾として『阿呆劇 三文オペラ』を上演しました。『三文オペラ』は、ドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトと作曲家クルト・ヴァイルが組んで1928年に発表した音楽劇。ブレヒト作品への初挑戦を決意した初代芸術監督の串田和美は、固有名を持たない道化的な阿呆たちが登場し、不真面目かつ無責任な社会風刺を演じる“阿呆劇”という世俗演劇スタイルで演出したのです。

ブレヒトの名作音楽劇『三文オペラ』を串田和美が“阿呆劇”という異なるスタイルで再解釈。ステージには大道芸人、サーカス芸人、さらに京劇の踊り手まで入り乱れるという百花繚乱の賑やかさ。沢田研二とオンシアター自由劇場の芸達者なメンバーが、ブレヒト版よりもポップな歌と演奏を聞かせてくれました。

本作には、沢田研二や芸達者なオンシアター自由劇場のメンバーの他、外国の大道芸人やサーカス芸人、さらに京劇の踊り手も入り乱れるという、百花繚乱のキャストが集結。個性豊かな阿呆たちによるドタバタが繰り広げられる一方、本職の沢田研二が歌いキャスト自身が演奏するシーンは、まるでブレヒトが生きていた時代の大衆文化・キャバレーのような賑やかさ。串田ならではの新たな解釈によって、古典的名作が見事に蘇りました。

●シアターコクーン②:優れた海外のコンテンポラリーダンスを紹介!「カンパニー・プレルジョカージュ」来日公演


1991年から2年ぶりの来日を果たした“ヌーベルダンスの第三世代の旗手”カンパニー・プレルジョカージュ。シアターコクーンではそれまでに2度ヌーベルダンスカンパニー「レスキス」の公演を行っていましたが、日本初演の2作品によって構成された彼らの公演はさらなる刺激的な体験としてダンスファンの注目を集めました。

1980年代初頭にフランスで誕生し、急速に盛んになった新しいダンスの潮流「ヌーベルダンス」。モダンダンスや舞踏の影響を受けつつ新鮮なイマジネーションによって独自の手法を追求し、シアターコクーンでも「レスキス」の公演を通じて、海外の優れたコンテンポラリーダンスとして紹介しました。そして1993年2月、ヌーベルダンスの第三世代の旗手アンジュラン・プレルジョカージュが創設した「カンパニー・プレルジョカージュ」の来日公演が実現しました。本公演で上演した『NOCES─婚礼』と『UN TRAIT D'UNION─ある関係』は、いずれも日本初演。『NOCES─婚礼』ではストラヴィンスキーの音楽に乗せてドラマティックなエモーションが全力疾走し、逆に『UN TRAIT D'UNION─ある関係』では男性ダンサーのデュエットによって2人の関係性が静かに執拗に探られていくという、相異なる刺激的なパフォーマンスで観客を魅了しました。

▼ザ・ミュージアム:ファッションの華麗なる歴史をたどる『オートクチュール100年展』

1858年にシャルル・フレデリック・ウォルトがクチュール・メゾンを創設して以来、その時々の社会的背景や芸術文化を反映しながら変化と発展を遂げたオートクチュール。その華麗なる歴史を振り返る『オートクチュール100年展 1870-1970』を、Bunkamura開館5周年の幕開けを飾る記念企画第1弾として1993年12月からザ・ミュージアムで開催しました。
本展は、メトロポリタン美術館などでコスチュームコレクションのアドバイザーを務めるベバリー・バークスのコレクションを中心に、ブルックリン美術館所蔵の19世紀末のコレクションを加えて構成。展示されたのは、ウォルト、ポワレ、パキャン、ヴィオネ、スキャパレリ、シャネル、バレンシアガ、ディオール、サンローランらによる、女性を美しく装わせたドレス約150点。こうした各時代を華やかに彩ったオートクチュールのモードの歴史を通じて、激動の20世紀を生きた女性たちの歴史をも具現化した展覧会となりました。

1858年にシャルル・フレデリック・ウォルトがクチュールメゾンを創設したことから始まり、数々の一流デザイナーたちによって発展していったオートクチュール。ザ・ミュージアムではその歴史を追うように約150点のドレスを展示し、100年以上に渡るモードの変遷を紹介しました。

◆ル・シネマ①:日本での人気に火が付いたパトリス・ルコント監督作『タンゴ』を上映

大人の恋愛劇の名手として定評のあるパトリス・ルコント監督が日本で知られるようになったのは、1991年に『髪結いの亭主』をル・シネマで上映し大ヒットしたことがきっかけ。その後、旧作の『仕立て屋の恋』が続けて公開され、1993年には待望の新作『タンゴ』をル・シネマで公開しました。
フェティッシュな官能美が濃厚に香り立つ『仕立て屋の恋』『髪結いの亭主』から一転、本作は女性にまつわる苦悩を抱える中年男3人が騒動を巻き起こすコメディ。軽妙洒脱なユーモアの中に、大人の恋愛の機微を繊細に表現し、おかしくも切ない気持ちを誘う不思議な作品となっています。その後もル・シネマではルコント監督の新作を上映し、大人の男女が織りなす官能的なドラマや、男の哀愁漂うヒューマンコメディを堪能しようと熱烈なファンが足を運びました。

『髪結いの亭主』『仕立て屋の恋』とル・シネマで立て続けに監督作を公開することで、日本でのパトリス・ルコント人気がすっかり定着。1993年に公開した『タンゴ』はそれまでの2作品とテイストが異なる内容でしたが、大人の恋愛の機微を繊細に綴る本作に多くのファンが魅了されました。

◆ル・シネマ②:セザール賞7部門を独占した芸術作『めぐり逢う朝』を上映

1970年代に犯罪サスペンスもので一躍名を馳せ、80年代からは『インド夜想曲』など芸術的な人間ドラマの数々を手がけるようになったフランスの名匠アラン・コルノー監督。そんな彼の90年代を代表する作品が『めぐり逢う朝』です。1992年度のセザール賞で作品賞や監督賞のほか全7部門に輝いたこの名作を、ル・シネマでは1993年に公開しました。
本作は17世紀バロック時代のフランスを舞台に、宮廷音楽家マラン・マレと彼の師である天才ヴィオール奏者サント・コロンブとの確執を軸に、芸術家としてのあり方を描いた人間ドラマ。耳に優しい音色の弦楽器ヴィオールによる名曲の響きはもちろんのこと、文学性や絵画的な美しさも堪能できる、極上の芸術作品でもあります。マレ役ジェラール・ドパルデューやコロンブの娘役アンヌ・ブロシェら名優たちが醸し出す気品と情熱もまた魅惑的で、多くの観客を魅了しました。

ル・シネマで上映するフランス映画は、アート系作品に限らず、現地で幅広い層から評価される話題作が中心。フランス最高の映画賞・セザール賞で7部門に輝いた『めぐり逢う朝』はそうした“名作お墨付き”の作品で、絢爛豪華な愛と芸術の世界に日本の映画ファンも虜になりました。

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