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感動が生まれる場所~劇場紹介その⑦ 東急シアターオーブ

Bunkamuraの主催企画を開催する劇場やホールをご紹介するレポート。「一度は生で音楽や演劇を鑑賞してみたい」と思っている方が気軽に足を運ぶきっかけになるよう、またすでに何度も足を運んでいる方も「このホールはこうなっていたのか!」と新たな発見を得られるよう、様々な角度から劇場・ホールの特徴に迫ります。 第7回は、渋谷のランドマーク「渋谷ヒカリエ」の11階に位置し、ミュージカルの本場のクオリティを体験できる作品を上演している「東急シアターオーブ」です。


ミュージカル観劇と渋谷の地上約70m
2つの非日常を体験できる“宙空の劇場”

渋谷駅直結の複合施設「渋谷ヒカリエ」の中核施設として2012年7月にオープンしたミュージカル専用劇場「東急シアターオーブ」。『ウエスト・サイド・ストーリー』でこけら落とし公演を行って以来、ブロードウェイやウエストエンドなどミュージカルの本場で人気を博した作品の来日公演、また世界各地で上演されたビッグタイトルの日本語版公演などを数多く上演し続けています。また、ミュージカル劇場としては珍しいビルの高層階に位置することから“宙空の劇場”とも呼ばれています。
そんな東急シアターオーブのルーツは、かつてこの地に建っていた東急文化会館(2003年閉館)にあります。東急文化会館は、4つの映画館や五島プラネタリウムなどを備え、時代の最先端の娯楽や文化を発信する場でした。同館が築いてきた歴史と果たしてきた役割を踏まえ、多世代に対するアピールと、本格的な文化発信に必要な“本物”のコンテンツの提供を意識して、東急シアターオーブはミュージカル専用劇場として誕生しました。ちなみに「オーブ」(球体の意味)という名称も、東急文化会館屋上のドームがトレードマークだった五島プラネタリウムへのオマージュを込めたものです。

東急文化会館の映画館「渋谷パンテオン」に掛けられていたル・コルビュジェの緞帳を、当時と同じ西陣織の技法で5分の1サイズ(縦4.8m×横2m)に縮小したものをセンターホワイエに飾っています。こんなところでも東急文化会館のDNAはしっかり受け継がれているのです。

渋谷ヒカリエ11階の劇場エントランスからエスカレーターまたは階段を上ると、開放感のある吹き抜けのホワイエにたどり着きます。ホワイエでは、地上約70mの高さからガラスの向こうに広がる渋谷の街や新宿・代々木の高層ビル群を一望できます。さらに2階席ホワイエの「THE THEATRE BAR(シアターバー)」で観劇前に渋谷の絶景を眺めながらワインやシャンパンを飲めば、ミュージカル観劇という特別な体験へのワクワク感がいっそう高まることでしょう。1階席ホワイエから客席へと向かうルートは、中央階段で吹き抜けを渡って球状のラウンドフレームをくぐる形になっていて、まるで宇宙船へ乗り込んでいくかのよう! 来場した瞬間から“宙空の劇場”ならではの非日常の世界へと誘われます。

ミュージカル鑑賞において大切な
観やすさと聴きやすさを実現するこだわり設計

そしていよいよ劇場内へ。東急シアターオーブでは客席空間は、浮遊感をコンセプトに空の「青」と雲の「白」を基調としています。こうしたデザインからも“宙空の劇場”らしさが感じられます。客席は1階・2階・3階・バルコニーで合計1972席という席数ですが、舞台から1階客席最後列までの距離が約29mで、同規模の劇場と比べて近くなっています。また、センターブロックの客席が前列席とずらした千鳥配置になっているのも大きな特長で、観客にとってはどの席からでも観やすく、キャストにとっても舞台から観客の表情が見えて反応をダイレクトに感じやすく、観客とキャストとの一体感を生み出します。
こうした“観やすさ”以外にもミュージカル鑑賞において大切なのが“聴きやすさ”。そのために東急シアターオーブでは音響設計にもこだわっています。拡散壁という凹凸の壁や水平フィン、またバルコニーの迫り出し部分で音の響きと明瞭度のバランスを調整。音が壁や天井に跳ね返って響き渡る時間(残響時間)を、クラシック専門ホール(約2秒)よりもやや短い約1.6秒に設定し、音楽と台詞・歌詞が明瞭に聴きやすくなるよう設計されているのです。

劇場内の壁は、ところどころで凸凹の形状になっていたり水平の板が設けられていることに気づきます。こうした設計によってミュージカル公演に最適な音の響きを調整しているのです。

なお、座席選びの参考として、各エリアの鑑賞体験の特徴を紹介しましょう。大劇場でありながら1階席後方までの距離が短いのは前述の通りですが、1階席前方は舞台上のセット・演出やキャストの表情を特に間近に体感することができます。一方、2階・3階席からは舞台全体を見渡しながら観劇することができます。特に、1階席の後方エリアまで迫り出している2階席は、想像以上の見やすさと臨場感に驚くこと必至です。

本場そのままの公演を可能にする
自由度の高い舞台機構

東急シアターオーブでは本場の最高峰ミュージカル作品を多彩に上演していますが、その充実したラインナップを支えているのが、多様なセット組みや演出に対応可能な舞台機構です。
舞台上には「バトン」と呼ばれる横長の黒いパイプを、舞台の手前から奥まで250mm間隔で60本も配置。このバトンには背景・セットや演出用の照明などを吊るし、ボタン1つの操作で正確な高さまで上げ下げできます。劇場内の壁面や天井など各所には仮設用の鉄骨やパイプが配置されているほか、舞台で使用する大量の水を円滑に給排水するためのシステムなど、ミュージカルのあらゆる演出に対応するための多種多様な設計を施し、ブロードウェイやウエストエンドの演出をそのまま再現可能にしているのです。こうしたミュージカル専門劇場としての優れた舞台機構は、海外のプロデューサーたちからも評価が高く、「日本で上演するならここがいい」と指定されることもあるのだとか。
他にも、オーケストラピットは上下に可動でき、演奏で使わない場合は客席にすることも可能。舞台面にはオーケストラピットに連続する大迫り(大型の昇降床)を備えています。また、床は1枚ずつ取り外せる組床で構成されていて、床下の奈落からキャストをリフトアップする演出にも対応可能。これらの機構なども組み合わせることで、多彩な表現が生み出されています。

観劇しやすい環境で選りすぐりのラインナップを提供し
ミュージカルの魅力を伝える使命を果たしたい

今回取材に応じてくださったシアターオーブ事業部の染谷さんに、東急シアターオーブでお客様に楽しんでほしいポイントを尋ねたところ、次のようなコメントを頂きました。
「私たちは常日頃から、もっとたくさんの方たちにミュージカルを観ていただきたい、もっとミュージカルのすそ野を広げていきたいと思っています。そのために東急シアターオーブでは観劇しやすい環境を整え、選りすぐりのラインナップをご用意しています。今後も『世界クオリティのミュージカルを楽しみたい』というお客様の期待を裏切らない施設であり続けていきますので、東急シアターオーブを通じてミュージカルの魅力を体験してください」
東京・渋谷のど真ん中にいながら、ブロードウェイやウエストエンドなど海外で人気のミュージカルを、本場のクオリティそのままに楽しむ──。そんなとびきりの非日常を楽しむことができる東急シアターオーブに、ぜひ一度足を運んではいかがでしょうか?

文:上村真徹

〈公演情報〉
ブロードウェイ・ミュージカル
『天使にラブ・ソングを…(シスター・アクト)』

公演日:7/3(水)~7/21(日)
特別協賛:株式会社IHI


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