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気鋭のデザイナーが今の時代ならではの《魔笛》の衣装づくりに挑む/高橋悠介さんインタビュー

“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。ORCHARD PRODUCE 2024『鈴木優人&バッハ・コレギウム・ジャパン×千住博 モーツァルト:オペラ≪魔笛≫』で衣裳を担当する高橋悠介さんが登場です。


社会とつながること

2024年2月、Bunkamuraが鈴木優人と古楽器オーケストラ バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)と共に、モーツァルトのオペラシリーズを開始。その第1弾 “今、ここにしかない《魔笛》”はタイトル通り、出演者だけでなくクリエイティブ陣にも要注目! なかでも衣裳を担当する高橋悠介さんは、ISSEY MIYAKE MENのデザイナーを経て独立し、現在はパリ・ファッションウィーク(パリコレ)でも話題のクリエイティブディレクターです。独立にあたってブランドに自分の名を冠するのではなく「CFCL (Clothing For Contemporary Life=現代生活のための衣服)」としたことは、ファッションだけにとどまらない、高橋さんの生き方そのものでもあるよう。
「三宅(一生)さんから教わったのは、何のために服を作っているのか?ということでした。着る人のため、社会のため、いずれにしてもきちんとしたコンセプトを持つことが必要なのだと。私は一人のデザイナーとして、服を作るという行為によって社会とつながることがすごく大事だな、と思います」。
社会性と時代性、これは高橋さんにとって譲れないこだわり。オペラの衣裳を手がけるのはこれが初めてということですが、今回の《魔笛》でコンセプト・リーダー的存在として美術を手がける画家の千住博さんの「いまの時代のことを《魔笛》に投影する」という言葉に強く共感を抱いたところからスタートしました。
「芸術作品というのはともするとある種の自己満足になりがちというか、作り手側のエゴだけに終わったりすることがあると思います。ファッションは特にそういったことがあるんです。半年に一回のコレクションでスタイルを生み出すときに、なぜその服が発表されたのかという理由が“なんかよかったから”では良くないんですね。だから《魔笛》という、数えきれないほど公演されているこの世界的に有名な作品をいまこのメンバーでやる必要性を考えたとき、千住さんが言葉にした想いに感銘を受けました」。

大学生のときにトーマス・アデス(英国の作曲家・ピアニスト)に影響を受けた。「クラシック音楽にハウス・ミュージックやクラブ・ミュージックのような音楽を入れ込んでいて、でも仕上がりは非常にアカデミックというところが、すごく面白いと思いました」。

多面的であるために

小さい頃の夢は建築家。祖父の影響でした。ファッションに興味を抱き始めたのは中学生のころ。大学進学を考えるころには建築家、ファッションに加えてプロダクトデザインやインテリアデザインにも興味が広がり、悩んだ末に大学ではテキスタイルデザインを専攻することに。
「テキスタイルデザインは、ファッションにも、インテリアにも通ずるものがあって、結局、大学生のときには両方に可能性が広がる道を選びました。そのうちにやはりファッションデザイナーを目指そうかと考えはじめたのですが、ほかのファッションを好きな人と比べると、もう少しプロダクトやインテリアにも興味がある自分に気がつきました。三宅一生さんの元で働くことが、自分のなかで一番しっくりきたということになります。そこで、どうすれば三宅デザイン事務所に入れるか、いろいろ調べていた際に、装苑賞を受賞されている方が多く入社されていることを発見。当時、グランプリを獲った方の経歴を調べた際に文化ファッション大学院大学に在籍していたことを知り、ここに入れば装苑賞を獲れるかもしれないと思い至ったのです(笑) 。 そうして、大学院在学中に装苑賞を無事に受賞し、その後三宅一生さんにお手紙を書いて面接のチャンスを頂き、晴れて三宅デザイン事務所に入社することができました。結果的にファッションブランドに携わる事で、店舗や什器、パッケージなど、建築やプロダクトデザインにもまたがるような仕事に携わる事ができています」。
誰でもできることではないことをさらりと話されてしまいましたが、もちろんこれまでには“壁”を感じたことも。
「一度や二度なら評価されるものを作ることができたとしても、それを続けるのは非常に難しい。もっと面白いことができないのかなど、自分のなかの引き出しがどんどん減っていく感覚があるんです。それを克服するポイントは二つ。一つは意固地にならずほかの人の意見をとにかく聞き入れること。もう一つは、自分の視点を変える姿勢を習得すること。同じものを作ろうとしても、視点が違うだけで異なった表現ができるというデザインの思考を手に入れられるんです」。

「ファッションというトレンドを生み出すようなシステムが生まれたのはパリかもしれないですが、衣服という意味でいえばそれは文明とともに生まれています。その土地に根付くカルチャーと切り離すことはできない。そのなかで、自分はなにをデザインしているのか、なぜパリコレに参加するのかを常に考えますね」。

舞台だからこうしなきゃ、は意識せずに

高橋さんの興味はファッションデザイナーとして活躍するようになってからも広がり続け、ここ4、5年は文楽や狂言、歌舞伎もよく観るようになったそうです。
「昔から変わらないものというのは、そこに評価される所以がある、時代を超えて愛される理由があるわけです。そういうものに触れることによって自分が成長できるし、普遍的なものから習得している感覚が良いと思うんです」。もともと中学高校では吹奏楽部でホルンを演奏されていたそうで、クラシック音楽には馴染みがあり、オペラ、バレエも含めて、多忙な現在も「月に3,4回くらいのペースで何かしらの公演に行っています」と柔らかな笑顔を見せます。
オペラの原体験は大学生のころウィーンとベルリンで数日の間に観た《椿姫》。いわゆるトラディショナルなウィーンの舞台とモダンに仕立てられたベルリンの舞台。親近感を覚えたのはベルリン国立歌劇場の方。「衣裳や装置がリアルな感じになったとき、距離感が縮まって、入り込める感じがすごくあった」のだと。この体験は、今回の《魔笛》での取り組みに影響しているようです。
「舞台だからこうしなくてはならない、ということをあまり意識することなく、特別視しないようにしました。細かいディテールよりも、遠くから観たときにその役柄がはっきりと分かるような色彩の強さなどを考えながら。CFCLの服っていうのはややフューチャリスティックで、ウエストマークされた西洋風な感じもありますが、(舞台上では)観たことのないシルエットになるので、それはすごく現代的というか、少し先の未来が感じられるんじゃないかと」。
公演までには綿密なフィッティングも行われますが、「最終的には実際の舞台で見てみないと。そこで大きく修正をするかもしれません」と高橋さん自身も未知の部分を楽しみにしている様子。“今、ここにしかない《魔笛》”が確かに作り出されようとしています。

文:吉羽尋子

〈プロフィール〉

1985年生まれ、東京都出身。文化ファッション大学院大学修了後、2010年に株式会社三宅デザイン事務所入社。2013年にISSEY MIYAKE MENのデザイナーに就任し、6年にわたりチームを率いる。2020年同社を退社後、CFCLを設立。2021年第39回毎日ファッション大賞 新人賞・資生堂奨励賞及びFASHION PRIZE OF TOKYO 2022を受賞。2022年パリ・ファッションウィークに参加。

〈公演情報〉
Bunkamura35周年記念公演
ORCHARD PRODUCE 2024
鈴木優人&バッハ・コレギウム・ジャパン×千住博 
モーツァルト:オペラ≪魔笛≫(新制作・全幕上演)
2024/2/21(水)18:00開演
2024/2/22(木)14:00開演
2024/2/24(土)14:00開演
2024/2/25(日)14:00開演
会場:めぐろパーシモンホール 大ホール

「Bunka Baton」では、“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語っていただきます。ぜひご覧ください。


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