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箏曲界の新星がボーダーレスな活動で切り開いた道とは/LEOさんインタビュー

“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。第13回は、日本の伝統音楽のみならず、あらゆるフィールドで活躍する箏アーティストのLEOさんをクローズアップします。


ボーダーレスに活動する
箏アーティストとして向き合う
「春の海」

箏という日本の伝統楽器で、クラシックやジャズ、コンテンポラリーなど、さまざまなジャンルに挑戦し、活躍の場を広げているLEOさん。近年ではロックの夏フェスに登場したり、老舗ジャズクラブでライブをしたり、さらなるボーダーレスな活動で注目を集めていますが、2024年1月2日にオーチャードホールで開催される『東京フィルハーモニー交響楽団 ニューイヤーコンサート2024』では、宮城道雄(池辺晋一郎編)による管弦楽のための「春の海」にソリストとして出演します。「春の海」といえば、お正月になるとあちこちで耳にする箏と尺八の名曲ですが、改めてこの作品に向き合う気持ちは?と尋ねたところ、じつに興味深い答えが返ってきました。
「箏をやっている以上、避けては通れない曲ですが、宮城道雄先生の作品には西洋音楽の影響を受けて書かれたものが多くあり、じつは『春の海』も楽曲構成から拍子感、奏法に至るまで、かなり西洋化された作品なんです。そういう意味では、箏の“古典”かと言われると、決してそうではありません。けれど、僕にとっては古典ですね」。つまり、伝統的な箏曲の世界から見れば革新的な作品ですが、伝統を超えてはるか未来をゆくLEOさんの境地から見れば「春の海」も古典に入るということ。「自分の立ち位置をどこに置くかによって見方が変わりますよね。もはや僕はどこだか分からなくなってしまいました」と言って笑います。
オーケストラとともに「春の海」を演奏するにあたっては、「一番難しいのが独特の“間合い”なんですよね。いくら西洋化されているとはいえ、本来は箏と尺八という、同じ音楽言語を共有している楽器同士のデュオ作品なので、邦楽固有の伸び縮みする時間感覚があります。オーケストラとの共演では、そういった部分のコミュニケーションが大変なのですが、これまでの経験も活かして、独特の間合いを面白くお聴かせできればと思っています」と意気込みを語ってくれました。
同じくニューイヤーコンサートでは、LEOさんのオリジナル曲「松風」も披露されます。「偶然ですが、『春の海』とほぼ同じ調弦で、僕のなかでは古典的な箏らしさを意識して書いた曲でもあります。今回初めて弦楽オーケストラと演奏させていただくことになり、とても楽しみです」。

『ニューイヤーコンサート2024』では着物姿で登場予定。「着慣れてはいますが、自分のコンサートで着ることはあまりないので、気が引き締まりますね」

「辿るべき道筋がない」ことが
一番の壁だった

9歳のとき、インターナショナルスクールの授業で箏に出会い、16歳で出場したくまもと全国邦楽コンクールにおいて史上最年少で最優秀賞を受賞。2017年に19歳でメジャー・デビューを果たしたLEOさん。ここまで順調にキャリアを重ねてきたように見えますが、「辿るべき道筋がないというのが、何より大変だった」とデビュー当時を振り返ります。「箏曲家と呼ばれる方々は、お弟子さんに教えながら演奏活動をし、公演は自主企画として自費で開催するスタイルが基本になります。そうやってずっと続いてきたのが邦楽界。クラシックの演奏家のように、各地でコンサートをして、その収入で生活していくというシステム自体がないんです。ですから、最初は“箏の演奏家としてやっていくなんて無理じゃない?”と思いました。実際、そういった生き方をしている箏の演奏家がいらっしゃらなかったので」。
そんな状況のなか、LEOさんはクラシックの演奏家とコラボレーションすることで、自分だけの道を切り拓いていきます。「デビュー・アルバムを出していただいたのは日本コロムビアの邦楽の部署でした。でも僕は自分からクラシックの部署に声をかけて、彼らと一緒にアルバムを作ることに。そのおかげで、クラシックの演奏家とコンサートができるようになりました。そこからだんだんと広げていって、クラシックだけでなくジャズや即興、オリジナルなど、自分の好きな音楽ができるようになっていった感じ」だといいます。

「デビュー当時のことを話すのはひさしぶりですね」というLEOさん。今の境地から振り返っていただきました。

“文化の継承者”として、何か意識していることはありますか?という問いに対しては、「文化継承のためというより、自分の好きな音楽、やりたい音楽をやって、結果的にそれが次へつなげることになっていったらいいなとは思います。先日、オランダのバンドのライブに呼ばれて即興で演奏したのですが、僕がまったく意識していなくても、彼らからすると僕が弾くフレーズには“日本らしさ”が出ていて、それがとても新鮮だったと言われました。そう言われてみれば、僕は作曲するとき、ピアノやギターではなく、箏を頭に思い浮かべながら動きを考えているんですね。それで自然と日本らしいフレーズが出てくるのだと思います」。
最後に、ニューイヤーコンサートで始まる2024年はどんな年にしたいですか? と聞くと、「来年は制作に力を入れていきたいと思います」と目を輝かせ、民謡や長唄、雅楽といった別の分野の邦楽とのコラボレーション、作曲家への委嘱ではなく共作(コライト)など、ワクワクする構想をたくさん話してくれました。箏アーティスト、LEOさんの快進撃はまだまだ続きそうです。

「どんな仕事でも受けた以上は後悔せず、必ずそこから学ぶ」姿勢を師から教えられたとのこと。LEOさんのチャレンジはまだまだ続きます。

文:原典子

〈プロフィール〉

1998 年横浜生まれ。9 歳より箏を始め、カーティス・パターソン、沢井一恵の両氏に師事。16 歳でくまもと全国邦楽コンクール史上最年少・最優秀賞・文部科学大臣賞受賞。2017年東京藝術大学に入学。MBS「情熱大陸」、テレビ朝日「題名のない音楽会」「徹子の部屋」など多くのメディアに出演。セバスティアン・ヴァイグレ、井上道義、鈴木優人、秋山和慶、読売日本交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、京都市交響楽団などと共演。
出光音楽賞、神奈川文化賞未来賞受賞。2022年には箏奏者として初めてブルーノート東京でライブを開催。また、同年「SUMMER SONIC」に異例の出演を果たしたことでも話題を集めた。

YouTube
https://www.youtube.com/@LEO-official
X @LeonoKoto
Instagram @leokonn0

〈公演情報〉
東京フィルハーモニー交響楽団
ニューイヤーコンサート2024
~どこかで出会った、あのメロディ~
1/2(火)、3(水)15:00開演 ※1/2出演
会場:Bunkamuraオーチャードホール

「Bunka Baton」では、“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語っていただきます。ぜひご覧ください。



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