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生きている過程、その延長に映画を作れたらいい/山中瑶子さんインタビュー

“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。第77回カンヌ国際映画祭で高い評価と話題を呼び、「国際映画批評家連盟賞」を史上最年少で見事受賞した『ナミビアの砂漠』山中瑶子監督にお話を伺いました。


生きている過程、
その延長に映画を作れたら

『ナミビアの砂漠』の主演・河合優実さんは、高校生のときに山中監督の初監督作品『あみこ』を観て「女優になります」と書いた手紙を監督に手渡したそうです。特に同世代や若い世代の人々にとって大きな刺激となっている山中監督に、映画監督してどういう人でありたいといった想い、そして映画という芸術はどのような存在かとお聞きしたところ、難しい質問にもかかわらず真摯に語ってくれました。

「『あみこ』を撮った前後の時期は、『四六時中ずっと映画のことを考えているのが映画監督としてあるべき姿』みたいなことを本気で思っていました。たとえばひどいことを言われたり、されたりしても、『これは映画のネタになる』とか……人にも言われますからね、私が『いやなことがあった』と話しても、『映画のネタになるから糧にしなよ!』とか結構簡単に言われたりして、ちょっと感覚が麻痺していってしまったんです。そのあとに映画業界の労働環境や性加害の問題が表出して、それまでの自分のモードが変わって、『え、なんか映画しょうもな』と、映画づくりに対して疑念が生まれました。それからコロナ禍で制作が延期になり、わりと自分と向き合う、『無理に映画を作らなくてもいい』ような時間ができて、今思い返せばその期間が私にとってはすごくよかったです。『生活をないがしろにしてでも映画のことを考えるのが、映画監督として真っ当である』みたいな思い込みから抜け出せて本当によかった。そういう考え方が、映画のためなら他人を踏んでいいということにつながりかねないと気づきました。あまり映画のことを信じすぎないようになったというか。映画だけのためには絶対に生きたくないし、生きている過程、その延長に映画を作れたらいい。それを最優先したいと、ここ数年ですごく考えていました。」

『ナミビアの砂漠』あらすじ:世の中も、人生も全部つまらない。やり場のない感情を抱いたまま毎日を生きている、21歳のカナ。優しいけど退屈なホンダから自信家で刺激的なハヤシに乗り換えて、新しい生活を始めてみたが、次第にカナは自分自身に追い詰められていく。もがき、ぶつかり、彼女は自分の居場所を見つけることができるのだろうか……?いじわるで、嘘つきで、暴力的。そんな彼女に誰もが夢中になる!

映画の存在意義
──社会を映す鏡

「映画は社会を映す鏡だから、映画で描かれていないと、社会に存在しないということになってしまう。だからとにかくたくさんの視点から、幅広い映画が生まれるように──いろいろな属性の人が監督したり、脚本を書いたりするのが当たり前なように早くなってほしいですね。いろいろな映画があるというのは豊かなことで、映画は他者のことを訳してもくれるし……私にとってはそこが、映画の存在意義として重要かなと思います。」

山中監督にとって、心の支えとなるような映画監督がいるかを聞いたところ、ある監督の名前を挙げてくれました。

「ロウ・イエ監督(『天安門、恋人たち』『スプリング・フィーバー』などで知られる中国の映画監督)ですかね。『ナミビアの砂漠』でも参考にさせていただきましたが、やっぱりロウ・イエの手持ち(撮影)にこそフットワークの軽さを感じるし、まさに『被写体を追う』感じだけど、そこに甘んじてもいないというか。ちゃんとドラマがあって、人間の根源的な葛藤がすごく丁寧に描かれているから、信頼している監督のひとりです。」

山中監督が「すごく幸せな現場だった。」と語る『ナミビアの砂漠』の撮影は若いスタッフキャストのチームで、現場でもみんなが活発にアイデアを出し合ったそう。

「私ですら『それってどういうこと?』とすぐにはわからないような面白いアイデアをみんなポンポン言ってくれるので、もちろん取捨選択はしていますが、すごく楽しくて豊かな映画づくりでした。」

そんな想いとともに撮影された『ナミビアの砂漠』の作品自体についてもたくさんお話を伺いました。インタビューの全文はこちらからお読みいただけます。なお、インタビュー全文には映画『ナミビアの砂漠』の本編や結末についての内容を含みますので、ぜひ映画本編をご覧になってからお読みください!

〈プロフィール〉

1997年生まれ、長野県出身。日本大学芸術学部中退。独学で制作した初監督作品『あみこ』がPFFアワード2017に入選。翌年、20歳で第68回ベルリン国際映画祭に史上最年少で招待され、同映画祭の長編映画監督の最年少記録を更新。香港、NYをはじめ10カ国以上で上映される。ポレポレ東中野で上映された際は、レイトショーの動員記録を作った。本格的長編第一作となる『ナミビアの砂漠』は第77回カンヌ国際映画祭 監督週間に出品され、女性監督として史上最年少となる国際映画批評家連盟賞を受賞した。監督作に山戸結希プロデュースによるオムニバス映画『21世紀の女の子』(18)の『回転てん子とどりーむ母ちゃん』、オリジナル脚本・監督を務めたテレビドラマ「おやすみまた向こう岸で」(19)、ndjcプログラムの『魚座どうし』(20)など。

X @dwnwakeup

〈作品情報〉
ナミビアの砂漠

Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にて9/6(金)よりロードショー

『あみこ』で史上最年少ベルリン国際映画祭出品
山中瑶子 監督・脚本 × 新時代のアイコン 河合優実主演
第77回カンヌ国際映画祭・国際映画批評家連盟賞受賞、『あみこ』山中瑶子監督×河合優実、若き才能の夢のタッグが実現!
私は私が大嫌いで、大好き──いじわるで、噓つきで、暴力的。そんな彼女に誰もが夢中になる!

「Bunka Baton」では、“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語っていただきます。ぜひご覧ください。