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5歳で歌舞伎に魅せられて、気が付けば歌舞伎俳優に/中村鶴松さんインタビュー

一般家庭から歌舞伎の世界に入り、十八世中村勘三郎のもとで修業を積み、今では若手の花形歌舞伎俳優として活躍する中村鶴松さん。2024年2月の歌舞伎座では『新版歌祭文 野崎村』の主役、お光を勤め、高い評価を受けました。2年前からは自主公演「鶴明会」も始動。5月の『歌舞伎町大歌舞伎』にも出演が決まっていて、その宣伝ビジュアル撮影でホストに扮したのが、インタビューの日でした。十八世勘三郎が「三人目の倅」と呼んで期待を寄せた鶴松さんの現在地とは?


5歳で歌舞伎に魅せられて

普通の家庭から歌舞伎の世界に入る人は多くはありません。鶴松さんは3歳から所属した児童劇団の方針で歌舞伎のオーディションを受けたのがきっかけとなりました。5歳で坂東玉三郎と現在の市川團十郎の『源氏物語』に出演。「子どもながらに、歌舞伎の美しさや異世界観に魅了されて、七五調の台詞が聞いていても真似しても心地よくて、すっかりはまりました」。その傾倒ぶりは、『弁天娘女男白浪』に出ていた時、主役の弁天小僧菊之助の台詞を全部覚えて、弁天役の役者さんに披露するほど。そこへ大きな転機がやってきます。
「中村勘三郎という大スターに出会ったことで人生が変わりました。平成中村座の『渡海屋大物浦』の安徳帝が最初で、『加賀見山再岩藤』では盲目の志賀市役で、舞台上でお琴を弾く難しい役でしたが、勘三郎さんがほめてくださったんです」
10歳で勘三郎の部屋子になった時、大きな決断はなかったと言います。「勘太郎くんや長三郎くん(中村勘九郎の息子たち)も、いつの間にか歌舞伎をやっていたと言いますが、僕も同じなんです。まだ小学生でしたから、大変だとか考えてないですよ(笑)。でも、中村鶴松という名前をいただいて、目の前のことを必死でやって、今になっている感じですね」

親が共働きで、平日は保育園、土日は児童劇団のレッスンに行っていました。ダンス、歌 、楽器などいろいろ習いました。今、できないですけど(笑)。

十八世勘三郎さんの教えを胸に刻んで

「勘三郎の父のことは今でも一番尊敬しているし、一番なりたい役者です。勘三郎の父は十七代目に厳しく育てられて、若くしてお父さんを亡くされて、苦労しながら、コクーン歌舞伎や平成中村座を立ち上げたり、自分で新しい道を切り開いた人。最初は批判もあっただろうし、それを乗り越えるエネルギーと覚悟は相当なものだったと思います」。稽古は厳しかったが、勘三郎から常に言われた言葉があります。
「心で芝居をしなさいということです。歌舞伎には型や見得がありますが、まず心があって、そこから自然と型や見得になるということですね。難しいですけど・・・」。2月の『野崎村』のお光では、恋敵のお染と対面してお辞儀をするたった一つの動きにも、驚き、羨望、嫉妬などが複雑に交錯しています。「お辞儀にもちゃんと意味を持たせることが大事。こうした小さいことの積み重ねでお光の心の変化をお客様へ伝えないといけない。本当にちょっとしたことを追求していく仕事なんですね、歌舞伎俳優って」。
そして、勘三郎から学んだ中村屋スピリットがあります。「全力でぶつかるということ。それは勘九郎の兄にも七之助の兄にもあって、大きい声を出すとか大きく動くとか高く飛ぶとか、人間ができる全力を出す。下手でもいいからぶつかっていくことを恐れないでいたい」

部屋子になる時、両親の方が悩んだと思います。でも、僕の希望をかなえてくれました。家族の支えが必要な仕事ですし、感謝しています。

役者はいつでも崖っぷちに立っているイメージ

20年以上になる芸歴で「壁にぶち当たってばかりです」と鶴松さんはとても正直に語ります。「崖の上に立たされて、お役がポンと降ってきて、上手くやれなかったら崖から落ちるイメージがあります。もう何回も落ちてますけどね(苦笑)。それでも這い上がって、ちっちゃい階段を一つずつ上がっていく感じ。性格が真面目すぎて、舞踊だとそれが生きたりするのですが、お芝居になるとどうしても良くない方向へ行ってしまって。考えすぎだよと、よく兄たちにも言われます。もっと、役の人物になり切って柔軟にできるようになりたいですね。今年は考えすぎないで、もう少し余裕を持ちたいです」。
「まずは地力をつけて、いろいろなことに挑戦したい」と鶴松さん。目標は父・勘三郎と同じく立役と女方、両方を兼ねる役者。「立役もやりたいので、そのためには女方もやっておくべきだと思っています。立役で色気や愛嬌や線の細さ、声の高さが必要な時に役に立つと思うから。女方をやっていると声域が広がるんですよ」。2年前からは自主公演「鶴明会(かくめいかい)」をスタートさせました。「自分がやりたい役、憧れている役ではなく、歌舞伎を見たことがない人でも楽しめるように、面白い古典をやっていきたいです。いつかは新作にもトライしたいですね」
5月の歌舞伎町大歌舞伎では舞踊『正札附根元草摺』で舞鶴役を勤めます。「虎ちゃん(中村虎之介)と二人で踊るのも初めてなので楽しみですね。舞鶴は男勝りの女性で、女方にこんなジャンルもあるんだと知っていただければ。新しいお客様と出会えることも期待しています」

虎之介君から「二人で一本任せてもらえるらしいよ」と聞いた時は、めちゃくちゃ嬉しかったです。虎ちゃんは一緒に戦ってきた戦友だし、同じような境遇で厳しく育ってきた仲間なので。

文:沢美也子

<プロフィール>

歌舞伎町での上演にちなんで、ホストの姿に初挑戦! この姿でのお写真は公演プログラムなどでお楽しみに!

1995年3月15日生まれ。2000年5月歌舞伎座『源氏物語』の竹麿で清水大希の名で初舞台。以後数多くの舞台に出演。05年5月十八代目中村勘三郎の部屋子となり、歌舞伎座『菅原伝授手習鑑』車引の杉王丸で二代目中村鶴松を名のる。18年2月博多座『鰯賣戀曳網』の傾城錦木ほかで名題昇進。これまでの出演に、渋谷・コクーン歌舞伎『夏祭浪花鑑』、『天日坊』などがある。

X @tsurumatsu_18
Instagram @tsurumatsu_nakamura

〈公演情報〉
歌舞伎町大歌舞伎

公演日:2024/5/3(金・祝)~5/26(日)
会場:THEATER MILANO-Za

「Bunka Baton」では、“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語っていただきます。ぜひご覧ください。


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