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室内楽もオーケストラも貪欲に取り組む!/水野優也さんインタビュー

“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。今回は、室内楽からオーケストラまで幅広いフィールドで活躍しているチェリストの水野優也さんに、そうした精力的な活動に挑む思いや自らの目指す道について語っていただきました。


演奏を楽しむことに明け暮れていた少年時代に訪れた転機

水野優也さんは2020年の第89回日本音楽コンクールでチェロ部門第1位など各賞を総なめにするなど、将来を期待される気鋭のチェリスト。そんな彼がチェロと出会ったのはまったくの偶然でした。6歳のころ、声楽をやっていたお母様の勧めで近所の音楽教室へ通うことになったのですが、通える曜日のクラスがたまたまチェロだったのです。
「僕が通っていたのはスズキ・メソードという教室で、基礎練習を積み重ねるというより、新しい曲を毎週どんどん練習していました。それがとても楽しくて、レッスンが辛いと思ったことは一度もありませんでした。小学5年生くらいの時にサン=サーンスの〈白鳥〉を弾き、チェロの音を好きな母が喜んでくれたのを覚えています」
このように“鍛錬”ではなく“楽しむ”姿勢でチェロと接していた水野さんに変化が訪れたのは中学2年生のことでした。
「日本音楽コンクールを観客として聴きに行き、自分とあまり年齢の変わらない出場者たちが人生をかけてコンクールに臨む姿を見て、チェロに対する意識が大きく変わりました。また、東京交響楽団の『こども定期演奏会』でオケの皆さんと一緒に演奏する機会があり、プロの音を間近で聴くことで感動が湧き上がりました。この2つは僕にとって大きな転機でしたね」
こうして「チェリストを目指そう」と決意した水野さんは音楽学校へ進学。「受験のためにソルフェージュや楽典を一から勉強する必要があり、週に10数時間もレッスンを受けてハードでした」と当時の苦労を振り返る一方、一度抱いた決心が揺らぐことはなく「辛くてやめたいと思ったことは一度もありませんでした」とのこと。そして高校3年生で挑戦した東京音楽コンクールで弦楽部門第1位及び聴衆賞に輝き、入賞者リサイタルなど演奏の機会が増え、プロとしての道を歩み始めたのです。

数年前に参加したあるコンクールで尋常ではないほど緊張し、「前日の夜からお腹が痛くなり、当日の記憶もないくらいで、緊張のレベルを超えていました」と振り返る水野さん。しかしその後は「あれだけの緊張を乗り越えたんだから」と成長の糧にできたそうです。

世界的チェリストに学んでたどり着いた「演奏家は輝いている姿を届ける仕事」という境地

チェリストとしてさらに成長するため、水野さんはクラシックの本場ヨーロッパへ留学。ハンガリー国立リスト・フェレンツ音楽大学でミクローシュ・ペレーニに、その後オーストリア国立ザルツブルク・モーツァルテウム大学でクレメンス・ハーゲンにそれぞれ師事してきました。2人とも世界的なチェリストですが、音楽へのアプローチや指導スタイルは正反対だそうです。
「ペレーニ先生は尋常じゃないぐらい真剣に楽譜と向き合い、曲が持つ要素をそのままピュアに聴衆へ届けようとする人。僕が知らない音楽の世界を自ら見せてくれ、レッスン時間の8割くらいは先生の演奏を聴いていました(笑)。一方ハーゲン先生は『こう弾きたい』という強い意志で自分の音楽を聴かせる人。また、自身が室内楽奏者ということもあり、奥行きというか立体感というか音の距離感の聞かせ方がとても上手なんです。指導においては僕が持っているものを最大限に引き出してくれ、とてもポジティブな気持ちで練習できます」
こうして音楽のエッセンスを多面的に吸収し、演奏のアプローチによって異なる感動の違いを実感したことで、水野さんがチェリストとして目指すものも変わっていきました。
「2、3年前までは『楽譜に書いてあることがすべて。演奏に自分の感情があってはいけない』という意識でした。しかし最近、僕の演奏を聴きたいと思ってコンサートに来てくださるお客さんがいる意味を考えるようになったんです。そこで考えたのは、『自分はこう弾きたい』という思いが伝わる演奏こそ、最も優先されるべきということ。僕が尊敬する演奏家たちはその人の持っている音がとても魅力的で、個性も光っています。演奏家というのはそうした輝いている姿を届ける仕事なんです。だから僕も聴き手を魅了できるような演奏を実践し、僕の演奏をもう一度聴きたいと思ってくださる方が増えたらいいなと思います」

室内楽からオーケストラまで“欲張りな活動”の意義とは

ソロや弦楽四重奏などの室内楽だけでなく、コンチェルトのソリスト、さらに世界的ピアニストの反田恭平さん率いるジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)の団員など幅広いフィールドで活躍している水野さん。各フィールドの活動スタイルは一見かけ離れていますが、鍵となるエッセンスは相通じるものがあるそうです。
「人間同士でアンサンブルを奏でるわけですから、どんな演奏スタイルでも人間関係が軸になります。オーケストラはそれこそ会社みたいなものですね。個人的に一番難しいと感じているのは弦楽四重奏。4本の柱のうちどれか1本でも揺らぐと演奏が崩れてしまい、逆に1本揺れても他の柱で補うこともでき、そのバランスを保つのが難しいんです。でも難しいからこそやりがいもあり、今後は固定のメンバーで取り組みたいという思いもあります」
また、このように異なるフィールドを自在に渡り歩くことは、水野さんにとって大きな意義があるのです。
「僕のキャリアの始まりはソロで、コンクールや演奏会でコンチェルトを弾くこともありましたが、大人数のオーケストラの中で交響曲を弾くことによって表現の幅がさらに広がりました。たとえば、同じフォルテでも2人で弾く場合と数十人で弾く場合では感覚がまったく違うんです。そうした感覚を肌で経験することによって、『ここはオーケストラのトゥッティ(すべての奏者が同時に奏すること)のような感覚が欲しい』という要望にも応えることができ、室内楽にも役立っています。また、オーケストラでコンチェルトの伴奏を担当し、ソリストの演奏やそれに対するオーケストラの反応などをいろんな方面から見ることで、自分がソリストに戻った時に感じることも変わるんです」
1つのフィールドで得られた感覚や成果を別のフィールドにも還元し、チェリストとしてさらなる高みへ達するための成長につなげることができる。そうした確かな手ごたえがあるからこそ、水野さんは「欲張りですけど」と認めつつ、さまざまなフィールドを貪欲に渡り歩いているのです。

“団員全員がソリスト” と称されるJNOは、メンバー一人ひとりが異なる個性や信念を持っていることが特徴。そうした仲間たちと演奏する醍醐味について尋ねると「全員で演奏すると、それぞれ中和し合うのではなく、すべてが合わさり巨大な渦を巻き起こしていくような感覚があるんです」と語ってくれました。

先輩チェリストとのカルテット結成、そしてその先に目指すもの

来たる2024年12月13日には、『宮田大&横溝耕一が贈る室内楽フェスティバルAGIO』で宮田大さん、辻󠄀本玲さん、清水詩織さんとチェロカルテットを組んで出演します。
「バッハのシャコンヌからパンチが利いたピアソラの曲まで、それぞれのカラーが出て、チェロの音色の幅広さを感じることのできる演奏会になると思います。カルテットはメロディだけでなく内声や低音などさまざまな重要な役割があるので、責任感を持って挑みたいと思います」
このように先輩との共演に対する気負いは見せない一方、日本で同じ先生に習ったという宮田さんに対しては特別な思いがあるようで、「まだまだ兄弟子から学びたいと思うと同時に、自分が留学などを通じて得たものを見せて、一緒に良い演奏を作れたらいいですね」と意気込んでいます。
今後の目標について「自分の思いを演奏に乗せてお客さんに届けたいと思っています。そのために、シューマンなどドイツのロマン派の作曲家に重点的に取り組み、表現の幅を広げていきたいですね」と語る水野さん。これからどのように成長し、表現豊かな演奏を聴かせてくれるか楽しみですね!

文:上村真徹

〈プロフィール〉

1998年、東京都生まれ。6歳からチェロを始め、第89回日本音楽コンクールチェロ部門第1位や第13回東京音楽コンクール弦楽部門第1位など多数受賞。これまでソリストとして東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、読売日本交響楽団、大阪交響楽団、京都市交響楽団と共演。反田恭平率いるジャパン・ナショナル・オーケストラのコアメンバーでもある。

X @Yuya__Mizuno

〈公演情報〉
Bunkamuraオーチャードホール×浜離宮朝日ホール 共同企画
ORCHARD PRODUCE 2024
宮田大&横溝耕一が贈る室内楽フェスティバル AGIO vol.2

2024/12/13(金)~15(日)
浜離宮朝日ホール

「Bunka Baton」では、“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語っていただきます。ぜひご覧ください。