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Bunkamura History Vol.3 1989~1990年

「Bunkamura History」では、1989年にBunkamuraが誕生してから現在までの歴史を通じて、Bunkamuraが文化芸術の発展にどんな役割を果たしたか、また様々な公演によってどのような文化が発信されたのか振り返ります。第3回は、1989年9月のこけら落とし公演を終えてから1990年にかけて、各施設で行われた公演や展覧会を紹介します。


■オーチャードホール:既成概念にとらわれない『Bunkamuraオペラ劇場』が始動

Bunkamuraでは開業時からオーチャードホール独自のオペラを制作する企画『Bunkamuraオペラ劇場』を立ち上げ、第1弾として1989年12月から日中合作によるモーツァルトのオペラ『魔笛(まほうのふえ)』を上演。演出を務めたのは、オーチャードホールの設計にも携わった佐藤信(北京京劇院の院長・周仲春との共同演出)。「若者の街である渋谷で、マニアにしか理解できないオペラを作りたくはなかった」と語るように、物語の舞台をエジプトから古代中国に置き換えて衣装やセットを中国風とし、スペクタクルもふんだんに織り交ぜた誰もが楽しめる作品に。こうした新たな試みや冒険にチャレンジする姿勢は、その後もBunkamuraオペラ劇場の個性として引き継がれていきました。

他にもオーチャードホールではプロデューサー陣の個性を活かした数々の公演が開催しました。前田憲男がクラシックの名曲をポップス風にアレンジする『東急・東フィルポップスコンサート TOPS』がスタートし、1989年11月の第1弾では中国楽器の二胡奏者をソリストに迎えて新感覚のサウンドを披露。1990年12月には、作曲家・冨田勲がプロデュースする『トミタ・サウンドクラウド・オペラ ヘンゼルとグレーテル』を上演し、客席内に配置したスピーカーから流れる立体的なシンセサイザーサウンドで観客を包み込むという斬新なオペラとなりました。

日中両国の協力のもとに完成した「魔笛(まほうのふえ)」は、古代の中国を舞台にし、感情の国と理性の国をさまよう日本の皇子タミーノの通過儀礼の物語という、画期的な新演出でセンセーションを巻き起こしました。ドイツ語版と日本語版で上演した初演は大成功を収め、翌年には北京公演を実現、さらに凱旋公演も行いました。

●シアターコクーン:アングラ小劇場で誕生した傑作音楽劇を連続上演

1990年は、シアターコクーンをフランチャイズとするオンシアター自由劇場の名作として知られる音楽劇が2本上演しました。1936年の上海を舞台にジャズのバンドマンたちの数奇な運命を描いた『上海バンスキング』と、様々な恋物語をキャバレーショウのように散りばめた『もっと泣いてよフラッパー』。いずれも1970年代に六本木のアンダーグラウンド・シアター自由劇場で生まれた作品です。
両作品の魅力は何といっても、演じる役者が舞台で楽器を演奏するというスタイル。生演奏の臨場感が俳優たちの演技に説得力を持たせ、登場人物たちの背景に奥行きを与えてさらにドラマを盛り上げていくのです。この独自のスタイルを小劇場からそのままコクーンへと移し、空間が広くなっても変わらぬ熱気で観客を魅了。その後も繰り返し上演される人気公演となりました。

劇中の歌や楽曲を収めたアルバムやレーザーディスクが発売されたり、映画化もされた名作。日中戦争勃発前後の上海を舞台に、ジャズにかける男たちの熱い夢と、彼らを愛した女たちの生き様を描いた物語は、1994年まで再演を重ね、最後は二日間に渡るファイナルコンサートで締めくくりました。それから16年経った2010年、オリジナル・メンバーが再集結し、シアターコクーンで復活公演を行いました。

▼ザ・ミュージアム:“世界美術の宝庫”をそのまま日本に移した『デトロイト美術館展』

1989年12月、ザ・ミュージアムの柱の一つである海外の著名な美術館のコレクションを紹介する展覧会がスタートしました。その第1弾として選ばれたのは、古代美術から現代美術までコレクションが充実し、全米五大美術館の一つにも数えられるデトロイト美術館です。展覧会では16世紀から現代までの西欧美術をクローズアップし、ゴッホ、セザンヌ、ルノワール、モディリアーニらの名作約100点を展示。500年間に渡る西欧美術の流れをたどることのできる展覧会となりました。また、これほどの点数が日本でまとめて展示されるのは当時初めてのことで、美術愛好家のみならず幅広い層の方々が来場しました。

デトロイト美術館が所蔵する豊富なコレクションから、厳選された作品を展示しました。 美術に初めて触れる人々にも楽しんでいただき、名画の魅力を感じていただける展覧会となりました。

◆ル・シネマ:異例のロングランを記録した『カミーユ・クローデル』

1989年9月に『遠い日の家族』『パガニーニ』でこけら落としを終えたル・シネマは、翌月10月に『カミーユ・クローデル』でグランド・オープニングを飾りました。本作は、フランスを代表する個性派女優イザベル・アジャーニが、芸術史の陰に隠れた女性彫刻家クローデルを再評価した原作に惚れ込み、映画化権を獲得して自ら主演を務めた意欲作です。
彫刻の師ロダンと出会ったクローデルが、彫刻の制作とロダンとの愛の狭間で苦悩し追い詰められていく姿を、アジャーニが鬼気迫る演技で熱演。また、アジャーニは監督のブリュノ・ニュイッテンと一度愛し合い、別れを経て本作で再会したこともあり、同じ芸術家カップルとして愛と悲劇の物語をより真に迫るものとして体現。41週間ものロングランを記録するヒット作となると同時に、女性アーティストを題材にした作品というル・シネマの人気レパートリーの先駆けとなったのです。

本国フランスでの公開時は観客動員数1位を記録、1988年第14回セザール賞では作品賞と主演女優賞あわせ5部門を受賞した本作。当時ル・シネマでの公開にあわせて、みすず書房から原作『カミーユ・クローデル』が、文藝春秋から伝記『カミーユ・クローデル』が出版され、大きな関心を集めました。

◎横断企画:複合文化施設としての強みを生かした「UK'90」

1990年9月から11月にかけて、日本におけるイギリス年として日本各地で開催された「UK'90」にBunkamuraも参加。イギリス国内を巡回するオペラ・カンパニー『ウェルシュ・ナショナル・オペラ』の初来日公演をオーチャードホールで、ラファエル前派を代表する19世紀イギリスの画家『ロセッティ展』をザ・ミュージアムで、シェイクスピア戯曲を映画化したイギリス映画『ヘンリー五世』をル・シネマで公開するという、複合文化施設ならではの全館横断ラインナップでイギリス文化を紹介しました。また、ダイアナ元妃が2度目の来日を果たし、「UK'90」開催中にBunkamuraにも来場されました。

ウェルシュ・ナショナル・オペラの初来日には「ファルスタッフ」と「サロメ」の2演目が上演され、当時同カンパニーの名誉総裁を務めていたダイアナ元妃も観劇されました。
イギリスを代表する画家のひとり、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ。代表作《ベアタ・ベアトリクス》をはじめ、神秘的で詩的な作品の数々が紹介され、その魅力に触れることができました。 「UK’90」では、芸術を通じてイギリスの理解を深める貴重な機会となりました。

Bunkamuraの歴史をたどる「Bunkamura History」の続きはこちらからご覧ください。


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