見出し画像

感動が生まれる場所~劇場紹介その⑧ 浜離宮朝日ホール

Bunkamuraの主催企画を開催する劇場やホールをご紹介するレポート。「一度は生で音楽や演劇を鑑賞してみたい」と思っている方が気軽に足を運ぶきっかけになるよう、またすでに何度も足を運んでいる方も「このホールはこうなっていたのか!」と新たな発見を得られるよう、様々な角度から劇場・ホールの特徴に迫ります。 第8回は、東京都心の築地にある室内楽ホールで、豊かな音の響きが世界的に高く評価されている「浜離宮朝日ホール」です。


世界標準の美しい音の響きを誇る室内楽ホール

「室内楽を中心とした一流のクラシック音楽を存分に楽しむことができる、響きの美しいホール」を目指し、1992年に朝日新聞東京本社・新館と合わせて建てられた浜離宮朝日ホール。最寄り駅の築地市場駅と直結していて、初めて来場しても迷いにくい立地です。ホールの建築デザインは「格調、端正、シンプル」がコンセプトで、入口から客席へと向かう階段は床と壁が白い大理石!演奏会というハレの場に訪れた人々を極上の非日常ムードへと誘います。
音響特性に優れたシューボックス型(靴箱のような直方体)構造の浜離宮朝日ホールは音の良さに定評があり、1996年に米国音響学会が世界22ヵ国の76ホールを調査した際に、ニューヨークのカーネギーホールと並んで「Excellent」と評価されました。世界標準の美しい響きは聴衆のみならず国内外のアーティストにも愛されていて、ピアノをはじめとする器楽のリサイタルや室内楽を中心としたコンサートが連日開かれています。また、チケット代3,000円という手軽さでトップアーティストの演奏を楽しめるランチタイムコンサートや、より本格的にクラシックの世界に浸れるアフタヌーンコンサートも人気です。

建物の入口をくぐって館内に入ると、ホールへと続く階段の床と壁が一面白い大理石!踊り場には「歓喜」を表す赤と「静寂」を表す緑の色鮮やかなモニュメントが飾られ、大理石を背景にすることで存在感を示しています。大理石はホール内の壁にも用いられていて、ゴージャスでありつつ重厚な格調高さも感じさせます。

10分の1サイズの模型までつくって実現したこだわりの音響設計

浜離宮朝日ホールの最大の特長である音響の良さは、設計段階から最高の音楽ホールを目指したこだわりの結晶でもあります。まずはウィーンなどヨーロッパで評価が高い同規模のホール9つを訪れて専門家と一緒に音響調査を行い、さらに実寸の10分の1サイズの模型(奥行き3m!)をつくって音響実験も何度も重ねたのです。その結果、一流ホールの基準にならってシューボックス型構造を採用。さらに、使用する素材や面積の寸法にもこだわり、室内楽に合った滑らかな音の響きを実現できるよう壁は大理石・木材・グラスウール(繊維系の断熱材)でつくられており、吸音素材は使用されていない。天井も観客が開放感を感じることができるよう高くしつつ、音の響きを損なわないギリギリのバランスの高さに保たれています。
ホールの音響設計において大きな指標となる残響時間は、中規模以上のホールが2秒程度なのに対し、浜離宮朝日ホールは1.7秒(満席/500Hz)。これは、ピアノが最も良い響きで聞こえるよう、弦楽器とのバランスを取りながら残響時間をなるべく短く設計しているためです。ステージもピアノの響きの良さを考慮して奥行きが6.9mと短く設計されていて、さらに楽器の生音を前方へ反射しやすくするため両脇の音響反射板を斜めに設置し、演奏者や客席前方へとダイレクトに届けています。
全552席(1階448席・2階104席)の客席はどこに座っても豊かな音の響きを満喫でき、また1階8列目以降は1段ずつ段差があるので、後方からでもステージを近く感じながら見ることができます。そうした中でも各エリアによって鑑賞体験に違いがあり、1階前方はアーティストのパフォーマンスを臨場感たっぷりに味わいたい方に、2階正面はステージからの反響音をバランスよく聞きたい方におすすめ。また、ステージを見下ろすバルコニー席の下手側からはピアニストの指使いを見ることができ、チケットが販売されるやすぐ購入するお客様もいるのだとか。

浜離宮朝日ホールは縦長のシューボックス型構造ですが、1階席後方や2階席からでもステージが近く感じられ、素材や天井の高さなど細部までこだわった音響設計のおかげで、どの座席でも豊かな音の響きを楽しめます。また、ホール内の色彩デザインは、色を使いすぎてシンプルさを損なわないよう白・赤・木目で統一されています。

館内がより華やいだ非日常空間へとリニューアル!

浜離宮朝日ホールでは開館30周年を迎える前年の2021年に、ホールの美しい音の響きはそのままに館内設備をリニューアル。ホワイエのカーペットをビジネス的な雰囲気のグレーからワインレッドのカラーに張り替え、ソファもオーソドックスな背もたれ式からカジュアルな円形タイプに変更し、より明るく華やいだムードへと一新。また、高齢者、体の不自由な方、ベビーカーでの乳幼児連れの方も訪れやすいよう、2階入口から客席フロアまで移動できるエレベーターを設けました。
天井の高い広々としたホワイエでは、広大な築地市場跡やタワーマンションが並び立つ街並みを全面ガラスの窓から一望でき、昼は開放的な風景、夜は色鮮やかな夜景で開演前のワクワク感を高めてくれます。ホワイエには朝日新聞東京本社ビルのレストラン「アラスカ」が営業するバーカウンターが併設されていて、お酒やソフトドリンクのほか、カヌレなどの軽食を味わうことができます。コンサート当日に少し時間に余裕を持ってホールへ到着し、開演前にグラスを傾けたり軽食をつまみながら友人と話に花を咲かせたら、演奏への期待がいっそう高まることでしょう。

2021年の館内リニューアルでホワイエのイメージが一新。カーペットはシックで高級感のあるワインレッドのカラーに張り替えられ、ソファもポップな円形タイプに変更しました。バーカウンターでは同じ建物内のレストラン「アラスカ」がドリンクや軽食を提供しています。

メンバーもプログラムもパワーアップした“室内楽の祭典”

今年12月には、浜離宮朝日ホールとBunkamuraオーチャードホールの2度目の共同企画「宮田大&横溝耕一が贈る室内楽フェスティバル AGIO(アージョ) vol.2」を開催。日本を代表するチェロ奏者の宮田大と、NHK交響楽団ヴァイオリン奏者でウェールズ弦楽四重奏団のヴィオラ奏者でもある横溝耕一の呼びかけに応じて若手俊英奏者たちが集い、3日間にわたって室内楽の魅力と可能性を発信します。
今回取材に応じてくださったホールスタッフにこの企画の魅力について尋ねたところ「アージョの大きな特色は、アーティストが主導して企画を作っていること。宮田さんと横溝さんが学生時代の音楽仲間を中心に声を掛けたからこそ実現しうる、他では見られない豪華なメンバーが魅力です。そして、これほどの一流の方々が演奏する室内楽を、浜離宮朝日ホールならではの美しい音の響きで楽しめることが最大の魅力だと思います」と語ってくれました。また、今年の注目ポイントとして「前回は弦楽器のみの編成でしたが今回はピアノも入り、より音楽の幅が広がった華やかな演奏をお楽しみいただけます。今年初めて鑑賞する方はもちろん、昨年の公演を鑑賞した方もひと味違う演奏をお聞きください」と挙げてくれました。
最後に、浜離宮朝日ホールへ訪れるお客様に向けてスタッフの皆さんからメッセージを頂きましたのでお届けしましょう。
「浜離宮朝日ホールでは室内楽をはじめ、ポップスのアコースティックライブなども開催しています。さまざまな公演を通じて優れた音の響きを体験できますので、良質な文化芸術に触れる場としてぜひお越しいただければと思います」(支配人 西部宏志さん)
「通常の公演のほかにも、平日の11時半から13時ごろにかけて毎月ランチタイムコンサートを開催しています。近隣の築地場外市場や浜離宮恩賜庭園へ立ち寄ったり、銀座でランチやお茶を楽しむこともできるので、そうした楽しさと合わせて気軽にクラシック音楽を聴きにお越しください」(副支配人 川端伸和さん)

〈公演情報〉
Bunkamuraオーチャードホール×浜離宮朝日ホール 共同企画
ORCHARD PRODUCE 2024
宮田大&横溝耕一が贈る室内楽フェスティバル AGIO vol.2

2024/12/13(金)~15(日)
浜離宮朝日ホール