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ボストンから世界へ羽ばたくヴァイオリニスト/若尾圭良さんインタビュー

“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。今回は、アメリカをはじめ世界の注目を集めるヴァイオリニストの若尾圭良さんをクローズアップします。


人前で演奏したり、話したりするのが大好き

ボストンに生まれ育った若尾圭良さんは、9歳でオーケストラとコンチェルト(協奏曲)を初共演。2021年にユーディ・メニューイン国際ヴァイオリンコンクールジュニア部門で優勝し、アメリカのみならず世界へと活動の幅を広げています。「日本語で話すのは演奏するより緊張する!」と言いながらも流暢な日本語でインタビューに応えてくれました。

「両親ともに音楽家なので、母のお腹の中にいるときから音楽は身近にありましたが、ヴァイオリンをやりたいと言ったのは自分からです。3歳のとき、友だちがヴァイオリンを弾いているのを見て、私も弾いてみたいと。そう言った次の日にはもうヴァイオリンが用意されていて、すぐに両親が先生に電話をし、レッスンがはじまりました(笑)」

6歳からはボストン交響楽団のコンサートマスターを務めていた故ジョセフ・シルバースタイン氏に師事し、9歳からはクリーヴランド弦楽四重奏団の活動でも知られるドナルド・ワイラーシュタイン氏に師事。先生たちから学んだことが、今の若尾さんを作ってきたといいます。

「シルバースタイン先生が弾くヴァイオリンは、本当に人間の声みたいな音でした。小さいときからその音を聴いていたので、身体に染み込んでいるのだと思います。先生からは、歌うように弾くということを学びましたね。その後、ワイラーシュタイン先生に9年ほど師事しましたが、音楽ってこんなに楽しいんだということを教えていただきました。レッスンで先生の部屋に入る前から、もう弾くのが待ちきれないという気持ちがいつもあって。私はもともと人前で演奏したり、話したりするのが大好きなので、そういった気質を活かしてくださったのでしょう」

恐れを知らなかった11歳の自分に勇気づけられる

人前に出るのが好きという若尾さんは、11歳のときに「TED×ボストン」にて見事なスピーチを披露したことも。

「10分程度のスピーチを書いて憶えて、大勢の人やカメラの前でプレゼンテーションするのは初めての経験だったのですが、それよりもステージに上がる前にメイクさんがお化粧してくださるのが楽しみで、緊張も忘れてしまうほどでした(笑)。メイクが終わって“あと10分で本番です”と言われたときも、早く出たいと思って10分が3時間にも感じられて。あの頃の“恐れを知らない(fearless)”自分はすごいなと我ながら思います。今でもストレスやプレッシャーを感じたとき、11歳の自分を思い出して勇気づけられますね」

音楽だけでなく、さまざまなことに興味を広げてきた若尾さん。今年の秋からはニューイングランド音楽院に進学予定ですが、同時にハーバード大学にも合格したというのですから驚きです。

「最初は両方に通うつもりだったのですが、今年はコンサートがたくさん入っていていそがしいので、ハーバード大学の方は休学して、来年から通おうと思っています。子どもの頃から本が好きで、神話やファンタジーをはじめいろいろな文学を読んできましたし、エッセイを書くのも得意なので、大学で学んでみたいと。ヴァイオリンとの両立はなかなかに大変でしたが、ハーバードを受験しました」

いつでも人生最後の演奏だと思って

音楽家として大切にしていることを尋ねると、父であり、長年にわたりボストン交響楽団のオーボエ奏者として活躍する若尾圭介氏の言葉を教えてくださいました。

「父はいつも、私が演奏する前に“この演奏が人生最後の演奏だと思って演奏しなさい”という言葉をかけてくれます。私はこう見えて実は自分に厳しすぎるところがあって、自分で100%納得のいく演奏ができないと落ち込んだり、すごくストレスを感じたりしてしまうのですが、そんなとき、この言葉を言い聞かせています。とにかく自分の持てるものを全部出して、お客さまに楽しんでいただこうと。やっぱりネガティブな気持ちのまま演奏していると、それは必ずお客さまに伝わると思うんです。だからなにがあっても前を向いて、音楽を楽しんで、いくぞ! という気持ちで一回一回のコンサートに臨んでいます」

10月には『Bunkamura オフィシャルサプライヤースペシャル 未来の巨匠コンサート2024』に出演予定。東京フィルハーモニー交響楽団との共演で、ショーソンの「詩曲」とラヴェルの「ツィガーヌ」を聴かせてくださいます。

「このコンサートが日本でのはじめてのオーケストラとの共演になります。オーチャードホールという東京の大きなホールで、指揮の大友直人先生と東京フィルの皆さんと一緒に演奏できるのが、今から本当に楽しみです。アメリカではオーケストラとコンチェルトを何度も演奏してきましたが、やはり日本は聴衆の皆さんの雰囲気がアメリカとはまったく違うので、演奏する心構えも変わります。今回はもっとも自分らしさを出せるフランスの作品を選びました。ショーソンの『詩曲』は時間が止まったように感じられて、曲が終わった後もずっと続いていくような作品。クライマックスに向けて駆け抜けるラヴェルの『ツィガーヌ』とは対照的で、ちょうどいいバランスになっていると思います」

クラシック界の未来を担う輝かしい才能、今後の活躍からますます目が離せません。

文:原典子
写真:大久保惠造

〈プロフィール〉

2006年、ボストン生まれ。2024年9月、音楽監督アンドリス・ネルソンス指揮、ボストン交響楽団と2024/25シーズン幕開けを飾るオープニングガラコンサートでの共演が決定し、大舞台でのデビューに期待が高まっている。2021年ユーディ・メニューイン国際ヴァイオリンコンクールジュニア部門優勝、併せて委嘱作品の優れた演奏に対し、作曲家賞を受賞。2021年スタルバーグ国際弦楽器コンクール優勝、併せてバッハ賞受賞。2023年、ボストン響コンチェルトコンクール優勝、京都にて第32回青山音楽新人賞、ニューヨークにてSalon de Virtiosiキャリアグラント。Ryuji Ueno財団並びにレア・ヴァイオリン・コンソーシアムより1690年製ストラディバリウス クレモナ「テオドール」を貸与されている。

Instagram @keilawakao
ホームページ https://www.keilawakao.com/

〈公演情報〉
Bunkamura オフィシャルサプライヤースペシャル
未来の巨匠コンサート2024
Discover Future Stars

2024/10/13(日)
Bunkamuraオーチャードホール

「Bunka Baton」では、“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語っていただきます。ぜひご覧ください。